公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2015.10.21 (水) 印刷する

富坂、冨山、湯浅論争に思う 島田洋一(福井県立大学教授)

 10月2日付の「国基研ろんだん」で富坂聡氏が、次のように書き、冨山泰氏、湯浅博氏との間で論争になった。
 《読まなくても中身は分かる――。これは日本のメディア関係者に「保守論壇の記事をどう思うか?」と訊ねたときによく耳にする批判だ。「どうせ結論ありきの分析」と見切られているのだ。そして米中首脳会談を受けた日本の新聞報道は、まさに「中身を読まなくても分かる」内容だったといわざるを得ない。要するに米中間にどんな合意ができたとしても「アメリカは中国に冷淡だった」という結論に落とし込む目的が最初からあるのだ。……私は、こうした記事に甘やかされた日本人がどんどん国際社会の感覚と乖離していくことに危機感を覚える。》
 引き続く3氏の議論は、いずれも私には面白く、大変参考になった。
 確かに、「保守論壇の記事」に限らず、左翼論壇の記事においても、ありきたりの論だけあって、新たなファクトの提示、ファクトの掘り下げがない文章は読む価値がない。
 私は「しんぶん赤旗」の記事も折に触れ参照するが、国会に一定の議席を持つ政党の「論」は、日本政治の分析に当たって一定の意味を持つ「ファクト」だからだ。ただし弱小政党の論は、小さなファクトであって、頻繁に読む必要性は感じない。
 人民日報=中国共産党機関誌の記事も、基本的に赤旗と同性格の宣伝文書だが、巨大国の独裁政党だけに、人民日報が何を取り上げたか、すなわち何を重要事項と宣伝したがっているかは、国際政治上かなり重要な「ファクト」ではある。
 しかし、宣伝誌の性格上、都合よく実態を歪め、不都合な現実は圧殺するため、ジャーナリスティックな意味でのファクトの掘り下げは一切期待できない。
 中国問題専門家に望むのは、人民日報がある問題を重要事項として「報道」したというファクトではなく(それも素人には一定の知識となるが)、中国人には身の安全上なし得ない掘り下げを行うことだ。日本、アメリカはじめ自由主義国を専門とする場合とは比較にならない困難があるだろう。富坂氏にはそうした掘り下げを益々期待したい。
 と書いてきて、ここには「論」しかないことに気付いた。次回以降は、さまざまなファクトを取り上げつつメディア論を進めたいと思う。