国基研「今週の直言」7月25日付に、「『自由世界のリーダー』はどこへ」と題して、ドナルド・トランプ氏の共和党大統領候補指名受諾演説の分析を寄せた。スペースの関係で割愛せざるを得なかった点を若干補足しておきたい。
トランプ氏は演説で、「我々は、ヒラリー・クリントンがイラクやリビア、エジプト、シリアで追及した国家建設と政体変更(regime change)という破綻した政策を捨てねばならない」と述べている。ヒラリー氏が特に政体変更を追及したとは思えないが、ここで重要なのは、リビアのカダフィ大佐やシリアのアサド大統領の独裁について、「安定」を評価する言葉はあっても、非人道性を非難する言葉が一切ない点である。
別の場でトランプ氏は、イラクのサダム・フセインや中国共産党を「悪い」存在だが安定と秩序はもたらしたと述べ、物議を醸したこともある。
一時間を超える演説中に「人権」という言葉が、一度も現れなかったのは偶然ではない。他国の人権状況への無関心、ないし関心を持つことの危険のみ強調する態度は、トランプ氏に特有の問題ではない。ヘンリー・キッシンジャー、ブレント・スコウクロフト両氏に代表される共和党内「現実主義者」(realist)や民主党の多くにも共通する問題である。
彼らはかつて、ソ連の政体変更などあり得ないという「醒めた認識」から、現状維持を基本とした平和共存政策(デタント=緊張緩和)を支持した。これを非道徳的、かつソ連の弱さへの認識不足と厳しく批判し、政体変更を政策の基本に据えたのがロナルド・レーガンであった。歴史は、どちらが正しかったかをはっきり示している。
「人権は単に国内問題ではない。自国民の権利を顧慮しない政府が他国の権利を尊重するはずがないからだ」という、旧ソ連の反対制学者アンドレイ・サハロフの言葉は、常に真実である。
例えば南シナ海や東シナ海の状況は、中国の体制と密接に関連している。アメリカでは、「中国の人権」を、政体変更を視野に戦略的に追及していく姿勢が、例えばマルコ・ルビオ上院議員等にはある。
日本の政治家についてはどうか。中国の政体変更や、その中で「人権」をどう位置づけるかなど、頭の片隅にもない議員がほとんどではないか。国基研が主導すべき課題の一つだと思っている。
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