新しく都知事に就任した小池百合子氏については、日本の政治家には珍しい国際派として、かねて期待し、尊敬していた。しかし、小池新知事が盛んに口にする「都民ファースト」という標語には違和感を覚える。米国で物議を醸している共和党大統領候補ドナルド・トランプ氏の「アメリカ・ファースト」から借用したように思えるからだ。
小池氏は、当選直後の記者会見で「都民ファースト」を連発しただけではない。東京都庁のウェブサイトに載った新知事の「ごあいさつ」でも「常に都民ファーストで」都政を行うと表明。登庁初日の8月2日には都職員に対し、「何よりも都民ファーストに徹していただきたい」と訓示した。これを受けて5日に副知事4人の連名で出された都庁各局あての通達は「都民ファーストの視点に立った財政構造改革」を推進するとうたい、小池氏個人の造語にすぎなかった「都民ファースト」が今や都の公式用語にまで格上げされた。
「都民ファースト」については、かつて師事した生活の党党首小沢一郎氏のスローガン「国民の生活が第一」にヒントを得たのではないかとの憶測もある。だが、小池氏が言っているのは「第一」でなく「ファースト」であり、国際派の小池氏がトランプ氏の標語の一部を拝借したのは、まず間違いなかろう。
しかし、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」を聞いて米国民がすぐに思い浮かべるのは、1940年に結成された孤立主義団体「アメリカ・ファースト委員会」である。この団体は、初の大西洋単独横断飛行で名をはせたチャールズ・リンドバーグらに主導され、一時は80万人ものメンバーを抱え、欧州で勃発した第2次世界大戦に米国が参戦することに反対した。ナチス・ドイツに安全を脅かされた同盟国英国を救うことを拒否したこの委員会を思い出させるトランプ氏の「アメリカ・ファースト」の主張は、今日の同盟関係を破壊しかねないとして、米外交の主流である国際協調主義者にはすこぶる評判が悪い。
小池氏が就任記者会見で、リンドバーグのアン夫人の「成長や改革、変化の中にこそ本当の安定がある」という言葉をわざわざ引用し、東京大改革の熱意を表明したことでも、「都民ファースト」と「アメリカ・ファースト」が重なり合う。
小池氏は2020年の東京五輪の開催地の首長として、リオデジャネイロ五輪の閉会式(21日夜、日本時間22日朝)に出席するそうだ。地球の裏側でも「都民ファースト」を叫べば、欧米の国際派からひんしゅくを買うか、嘲笑されるのが落ちだろう。
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