米国防総省が5月に発表した中国に関する年次報告書によれば、2015年の日本の防衛費は408億ドルだったのに対し、中国は外国からの兵器購入や研究開発費は含まれていない公表値で1140億ドルと約3倍だった。これが2020年の見通しになると、日本は殆ど伸びないのに対して、中国は毎年約7%の伸びで2600億ドルとなり、日本の5倍以上になる。
何故5倍という数が重要なのか?
それは、人民解放軍が忠実に従っている『孫子の兵法』で「自分の兵力が敵の5倍となれば(勝てるので)攻撃せよ」と教えているからである。
心理戦でも相手が5倍以上になれば「勝つ見込みがない」という敗北感が根付くとされ、中国にしてみれば「戦わずして勝つ」ことになる。おまけに2020年には東京オリンピックが終了、そして中国共産党創立100周年が2021年である。
予算だけでなく実際の兵力はどうか?
本年6月に米海軍分析センターが出版した報告書によれば、2020年の段階で中国海軍の主要艦の数は世界最大の270〜279隻と見積もられ(同時点で米海軍は約260隻、海上自衛隊は42隻)、イージス艦に関しても18〜20隻で海自8隻と在日米海軍10隻の合計を上回る。攻撃型原子力潜水艦の数は8隻で、英仏の6隻を上回る。
潜水艦総数では、現防衛計画の大綱が完成する2020年頃に海上自衛隊の潜水艦は22隻になるが、2030年に中国海軍の潜水艦保有数は約100隻になるとする予測もある。
航空戦力に関しても、今年の防衛白書によれば航空自衛隊の戦闘機数が現時点で約260機、防衛計画の大綱が完成する2020年頃でも約280機であるのに対し、中国空軍は最新の第四世代戦闘機(航空自衛隊で言えばF-15等)の数だけでも昨年の時点で731機、今年は810機となっている。1年で80機近くも増えている。このペースが続けば、2020年頃には1130機となり、この分野でも航空自衛隊の約5倍になる。
防衛省は、来年度予算の概算要求で、過去最高額となる約5兆1700億円(今年度当初予算比2・3%増)を計上する方針という。当然の対応と思うが、理解に苦しむのは、これをとやかく書き立てるメディアの感覚である。対国内総生産(GDP)比で比較しても、同盟国アメリカが3.4%で、英国、フランス、豪州、インド、韓国といった国々も約2%と日本(1%)の倍以上を支出している。何故、問題視して騒ぐのか?
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