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2016.08.31 (水) 印刷する

「お言葉」と「女系天皇」を結び付ける策謀許すな 百地章(日本大学教授)

 ●女性天皇容認の二階発言
 自民党の二階俊博幹事長が、8月25日に収録されたBS朝日の番組「激論!クロスファイア」の中で「女性天皇容認」の発言をしたと報道されている。それによれば、二階氏は質問に答えて、「女性尊重の時代に天皇陛下だけそうはならないというのはおかしい。時代遅れだ」と女性天皇を容認したとある。また、その後、記者団に「諸外国でもトップが女性である国もいくつかある。何の問題も生じていない。日本にもそういうことがあってもいいのではないか」と語っている。
 それ以上の説明はなかったようであり、想像するに、それほど深い考えがあってのこととは思われない。ただ、自民党幹事長の発言でもあり、その影響力は無視できなかろう。また、今回の陛下の「お言葉」と関連づけて、二階発言を利用しようとする者がいないとも限らないから、警戒を要する。
 というのは、今回の二階発言を引き出した番組のコメンテーター、歳川隆雄氏の質問がまさにそれであったからである。氏は「天皇陛下のお言葉を精読すると、天皇、皇后両陛下が女性・女系天皇の即位容認と女性宮家の創設を求めておられる、と読めるのです。この点についてどう思われますか」という引っ掛け質問を行い、二階幹事長の発言を引き出した。このやり取りからすれば、まるで陛下が女系天皇や女性宮家をお望みであるというのが事実であり、幹事長も女系天皇・女性宮家を容認した、という事になりかねない。
 懸念されるのは、この歳川氏のように、今回の陛下のお言葉を引き合いに出して、小泉純一郎内閣当時の「女系天皇」問題や、野田佳彦内閣での「女性宮家」問題までが、すべて陛下のご意向に基づくものであったかのように吹聴する人たちが出てこないか、ということである。現に、先日(8月26日)放映されたテレビ朝日の「朝まで生テレビ」では、女系論者たちが、それと思わせるような発言を繰り返していたことを考えれば、決して杞憂とは言えまい。

 ●譲位問題とは異なる男系皇統の維持
 しかしながら、今回の天皇陛下のお言葉は、あくまで陛下ご自身のご高齢に伴う譲位にかかわるものであって、いわば個人的な問題である。それに対して、「女系天皇の容認」や「女性宮家の創設」は、個人を超えた皇室制度の根幹に関わる問題である。しかも、かつて見られた「譲位」と異なり、初代神武天皇以来、男系で継承されてきた皇統の断絶を意味する「女系天皇」など絶対にありえないことである。それゆえ、皇室の伝統を大切にされる陛下がそのようなことを望まれるはずがない。
 この点は、「女性宮家」の問題も同様である。男系の皇統を守るべく、いざという時に備えて設置されたのが「宮家」(世襲親王家)だから、女性宮家では全く意味をなさない。だからこそ、女性宮家など一度も存在したことがなかった。このことを熟知されているはずの陛下が、軽々に女性宮家などと言い出されるはずがない。
 とすれば、「女系天皇」や「女性天皇」の問題は、政界の一部や宮内庁に存在する「女系派」の策謀と考えるのが自然であろう。

 ●政府見解および学説の通説は「男系」
 「皇位の継承」が「男系」によることは、2千年に及ぶ「不文憲法」に基づく。これを近代国家に相応しく成文化したのが、明治憲法第2条の「皇位ハ…皇男子孫之ヲ継承ス」であった。
 ところが、現行憲法は「皇位の世襲」(2条)を定めているだけで、「男系」についての言及はなく皇室典範において初めて登場する(1条)。そのため、皇位の継承が「男系」を指すのかどうか、憲法制定当初より議論があったが、歴代政府は一貫して「皇位の継承は男系による」としてきた。
 ところが、この一連の政府答弁を、何等理由らしい理由も示さないまま突然変更し、「皇位の世襲」は「男系及び女系の両方を含む」と述べたのが小泉内閣の福田康夫官房長官であった(平成13年)。これは、その後、平成18年に、当時の安倍晋三内閣官房長官によって否定され、従来の政府見解が維持されることになったが、この「男系でも女系でも構わない」とする答弁を行った福田長官の肝煎りで設置されたといわれるのが、小泉内閣当時の「皇室典範に関する有識者会議」であった。そして、ロボット研究者で元東大総長の吉川弘之座長に代わって、事実上、この会議を取り仕切ったのが元最高裁判事で座長代理の園部逸夫氏だと思われる。
 実は、憲法学説においても、「皇位の世襲」は「男系」を意味するというのが従来の「通説」である。例えば美濃部達吉博士は「皇統は専ら男系に依り女系に拘わらないことは、我が古来の成法である」(『日本国憲法言論』)と述べ、宮沢俊義東大名誉教授も「わが国では、皇族の身分をもたない者は皇位継承の資格はないが、皇族の身分をもつためには、かならず『男系』により皇統に属することが必要であるから、ここでとくに『男系』という必要はない」(『憲法(改訂版)』)という。また、佐藤幸治京大名誉教授なども「『皇統』は歴史的に『男系』であることが求められた。皇室典範一条が『皇統に属する男系』とするのは、それを確認するものである」(『憲法』)と明言している。
 
 ●女系論者たちの合作が有識者会議報告書
 これに対して、「憲法第2条の『世襲』は、女系による血統も含む」との少数説を述べたのが園部逸夫氏であった(『皇室法概論』平成14年)。そして、有識者会議の報告書(平成17年11月)にも、「憲法において規定されている皇位の世襲の原則は、天皇の血統に属する者が皇位を継承することを定めたもので、男子や男系であることまでを求めるものではなく、女子や女系の皇族が皇位を継承することは憲法の上では可能であると解されている」とある。
 このように、従来の政府見解を否定して、「女系天皇」に道を開こうとしたのが福田長官であり、それを受けて、これもまた学界の少数説でしかない「女系天皇容認説」に立って、報告書をまとめたのが園部逸夫氏であった。まさに女系論者たちの合作がこの報告書である。そして、「女性天皇」と「女系天皇」の区別さえできなかった小泉首相のもとで、「女系天皇」の実現を企てたわけであった。紙数の関係で、結論だけ言えば、野田首相当時の平成23年11月、「女性宮家」の創設を働きかけた羽毛田信吾宮内庁長官も、女系天皇容認論者である。
 このように、女系天皇容認論者たちが一方的に推進したのが「女系天皇」と「女性宮家」であった。そして、その流れは、今なお、宮内庁の内部に存在すると伝えられている。
 それ故、今回の「譲位」問題の解決に当たっては、女系派の機先を制し、「益々減少する男系男子の皇位継承権者を確保するため」という大義名分のもと、旧宮家からの皇族実現とセットで取り組むべきことを強く主張していく必要があると思われる。