公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2016.10.31 (月) 印刷する

日韓GSOMIA協議再開の意義を考える 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 報道によると、先日東京で開かれた日米韓の外務次官協議で日韓両政府は、間の防衛秘密を交換する際の手続きを定めた軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の協議を11月にも再開することで合意した。年内の締結を目指すという。
 日韓GSOMIAは2012年6月に締結される予定だったが、歴史問題を背景とする国内世論の反発を受けた韓国政府が署名式の約1時間前にキャンセル。現在まで棚上げされたままになっていた。
 今回の協議再開は米国の圧力がイニシアティブとなっているように思われる。その理由は8月に北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイルの実験を成功させたことがある。米国にとって対潜水艦戦能力の向上は急務だが、韓国は2010年3月にコルベット艦「天安」が北朝鮮の潜水艦が発射した魚雷によって撃沈されてしまうといったレベルである。米国としては、海上自衛隊の優れた対潜水艦情報を韓国に提供して貰いたいという意図だろう。
 だが、日本側には、軍事情報の流れとしては日本から韓国に与える方が多いのではないかといった議論がある。また、韓国は中国にGSOMIAを提案しており、日本の軍事情報が中国に筒抜けになるリスクもはらんでいる。
 ただ、日本にもメリットはある。韓国から直接日本への軍事情報提供がなされるようになれば、北朝鮮により近い位置にある韓国の弾道ミサイル探知情報が日本にも即時に提供される可能性である。
 2012年4月に北朝鮮西岸から弾道ミサイルが発射され、打ち上げ後に空中分解したことがあった。このとき、韓国のイージス艦は黄海に展開していて、発射された弾道ミサイルの発射を探知できたが、海上自衛隊のイージス艦は日本海と沖縄周辺海域に待機していたため探知できず、弾道ミサイル発射情報に関して日本政府の発表が数時間遅れることになった。仮に海自と韓国海軍のイージス艦がデーターリンクで結ばれ、リアルタイムで情報を共有できていれば、そのようなことにはならなかったであろう。
 もう一つ、日本としてのメリットは、韓国にいる脱北者からの人的情報が得られる可能性があることである。北朝鮮に拉致された日本人被害者の情報や北の核開発に関する情報は、人的情報以外には入手し難い。
 GSOMIAに限らず、朝鮮半島が戦乱状態になった時の日本人非戦闘員の救出作戦(NEO)に関しても、現在は日韓間でまったく協議が行われていない。計画や訓練すらできていない状態であるが、北朝鮮崩壊説が流れる中、そうした問題に関しても協議することが喫緊の課題であろう。