米大統領選は、大方のメディアの予想に反し、共和党のドナルド・トランプ氏が大逆転、ヒラリー・クリントン前国務長官(民主党)を打ち破る結果となった。投票日の前日、クリントン氏の当選確率を84%と報じたニューヨーク・タイムズ紙は選挙後の13日、読者に詫びる釈明文まで掲載する羽目になったが、元はと言えば、主要な新聞、テレビの強いリベラル偏向が報道・編集を歪めたものだ。
NYタイムズの釈明文は、アーサー・サルツバーガー同紙発行人・会長らの連名で出され、「トランプ氏が型破りだったため、有権者の支持を過少評価してしまった」と自省のポーズを見せたが、その直後に「われわれはジャーナリズムの基本的な使命を果たしていく。そのためには読者の支持が欠かせない」と述べ、釈明の狙いが実は「購読継続のお願い」であることを露にした。
得票総数では、クリントン氏が僅差ながら過半数を取得したが、選挙人獲得数ではトランプ氏が過半数の270票をはるかに上回る圧勝となった。理由は、製造業が集中する中西部(オハイオ、ミシガン、ウイスコンシンなど)やペンシルベニア州で、失業や所得減少などの問題に直面する白人労働者(非大学卒)の「声なき声」に対応出来なかったクリントン陣営にある。フロリダ州でもトランプ氏が白人票の6割以上を獲得、勝利をおさめた。民主党が共和党に比べ、女性や黒人、ヒスパニックなどの権利を擁護する「ポリティカル・コレクトネス」(政治的正しさ)に大きな比重をかけているのが逆効果を生んだといえる。
アメリカの新聞、テレビのメディア界は、一般国民がほぼ二分されているのとは違い、7割以上が民主党支持者で占められている。今回の選挙でも、NYタイムズやワシントン・ポストの2紙をはじめ(発行部数の多い100紙のうち)大半がクリントン支持を打ち出したのに対し、トランプ支持を公表したのはたったの2紙だけだ。トランプ氏を政治経験のない「不動産王」と軽視し、放送メディアもセクハラ会話テープなどのスキャンダルに多くの時間を割く偏向も目立った。1980年の大統領選で、リベラル・メディアが、ワシントンの政治経験がなく、「カウボーイ俳優上がり」と揶揄したレーガン共和党候補が民主党のカーター氏に圧勝したことを思い起こさせる。
米ギャラップ社が今年9月中旬に行った調査によると、マスメディアに対する米国民の信頼度は、調査が始まった97年以来最低の32%に落ちたという。共和党員に限ると、メディアを信頼しているのはわずか14%でしかない。今回の大統領選の報道ぶりは、マスメディアに対する国民の信頼感をさらに低下させる懸念が強い。対岸の火災ではない。日本でもマスメディアの信頼度が落ちており、2000年には新聞、裁判所、病院の順で国民から信頼されていた組織が、2014年から新聞は6位、テレビは10位に転落した。代わって自衛隊がトップに躍り出ている。現実的な安全保障や外交政策に反対する、ユートピア的なリベラル新聞やテレビが圧倒的に多数を占めるからだ。
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