公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2016.11.24 (木) 印刷する

中国は尖閣奪取で米新政権の出方試す 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 先週1週間シンガポールでの国際会議に参加した。その中で感じたのは、中国の代表が米トランプ新政権は内向きであり、アジアにおける中国の影響力を増大するチャンスと認識していたことである。逆に日本はトランプ政権の誕生でショックを受けているとも発言していた。
 これに対し筆者は、却ってトランプ政権の安全保障補佐官に指名されたマイケル・フリン元国防情報局長官は、オバマ政権でウクライナ・シリア・南シナ海等全てにつき宥和政策をとり続けてきたスザン・ライス国家安全保障補佐官と比べてずっとマシであること等に言及して、逆に日本の防衛費増額と憲法改正の好機となることを指摘した。
 しかしブッシュ政権誕生直後の2001年4月に米電子偵察機EP-3を人民解放軍機が海南島に強制着陸させた事件や、オバマ政権誕生直後である2009年3月に南シナ海における米音響測定艦インペッカブルの針路妨害事件、及び同年5月、黄海での米音響測定艦ヴィクトリアスに対する同様の事件に見られるように、中国はこれまで米国に新政権が誕生すると、その出方を試すような挑発行為を行ってきた。従って、来年早々同じような事件が起こる可能性に注目しなければならない。
 筆者の推測では、その可能性は三つある。一つはスカボロー礁周辺の埋め立て開始、二つ目は南シナ海での防空識別圏の設定、三つ目は尖閣諸島の実効支配である。ただ、南シナ海での勢力拡張は仲裁裁判所の裁定後であることやフィリピンの新ドゥテルテ大統領と良好な関係を築きつつある時に、前者2つについては敢えて強硬策に出るとは考えにくい。従って、尖閣諸島の実効支配を既成事実化する可能性がもっとも高い。その際、米国との直接の武力衝突に至るのは避けたいので、武装漁民の上陸等によって実効支配し、米新政権が安保条約第5条の発動に至るのかをテストするのではなかろうか。