ドナルド・トランプ米新大統領の報道が連日のようにテレビや新聞をにぎわしている。先日、訪日中の米保守派の歴史家、ジョージ・ナッシュ氏が「アメリカの保守主義とポピュリズム」と題して講演した。ナッシュ氏は、ハーバート・フーバー第31代米大統領の研究家として著名で、フランクリン・ルーズベルト第32代大統領と日米戦争の隠された歴史を追究した「Freedom Betrayed」(裏切られた自由)の編者として知られる。
この講演の中でナッシュ氏は、「メディアを含めトランプ大統領を批判する人は、大統領が言っていることを字句通りに受け止めて攻撃するが、トランプ支持者は、言っていることではなく、背後にある、大統領の意識や意図を真剣に受け止めている」と指摘した。
典型的な例として、イスラム圏からの入国を規制する大統領令が、裁判所で違憲論争にまで発展しているが、世論調査では半数前後が入国規制を支持している。というのは、テロの防止、移民規制、失業対策など保護主義が、トランプ支持の中核となっている白人労働者層の最大の関心事であり、新大統領の実行力を感じ取れるからだ。
●“有言不実行”の前任者への反発
メキシコとの国境に壁を設ける、建設費はメキシコの負担にする、といった破天荒な要求は、メキシコとの外交関係に打撃を与えている。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の破棄を大統領就任後直ちに発表、日本など関係国に衝撃を与えた。この結果、一部製造業が米国内に戻るとコストが上がり、米国の消費者は値段の高い品を購入することになる。だが、今、トランプ氏を大統領に選んだ米国民が求めているのは、選挙公約の実行である。“有言不実行”のオバマ前大統領への反発が新大統領の背中を押している、ともいえよう。
ナッシュ氏によると、トランプ大統領は従来の枠にはまらないリーダーだ。左翼、リベラル、保守、右翼という分け方ではなく、むしろ、所得、教育水準の上下などに比重があり、従来の思考では括れない。これからやってくる政権内部や議会、外国との政策調整をいかに落着させるのか、予測は依然難しい。
ただ、「トランプ大統領に助言を求められたら…」と問われてナッシュ氏は、まずフーバー大統領のようにもっと世界を見て回ることと指摘、次に、ロナルド・レーガン第40代大統領のような「自身を笑うことが出来るユーモアがあると…」と言って笑みを浮かべた。