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国基研ろんだん

2017.03.07 (火) 印刷する

教科書から「聖徳太子」を抹殺するつもりか 髙池勝彦(弁護士)

 2月14日、文部科学省は次期学習指導要領の改定案を公表し、パブリック・コメントを募集している。
 文科省の左翼的体質はかねてから指摘されていたことではあるが、今回驚いたことに聖徳太子を抹殺しようとしていることが明らかとなった。
 中学校学習指導要領には、「『律令国家の確立に至るまでの過程』については、厩戸王(聖徳太子)の政治、大化の改新から律令国家の確立に至るまでの過程を、小学校での学習内容を活用して大きくとらえさせるようにすること」とある。
 これまでの学習指導要領と「厩戸王(聖徳太子)」の部分を除いてほとんど同じ文章である。従来は、カッコ内の表記は単に「聖徳太子」とあっただけである。
 この改定の狙いは明らかだ。子供たちに「聖徳太子」は「聖徳太子」ではなく「厩戸王」であると教え込もうということなのである。

 ●日本人の心に刻まれた名
 「聖徳太子」という名は死後つけられた名前だから、生前の名前で教えるのだというのは理由にはならない。そのようなことをいうのであればすべての天皇は死後のおくり名であるからである。
 そもそも専門的な学者ではない子供たちに聖徳太子に2つの名前があることを教える必要があるのであろうか。教科書の登場人物の中で「厩戸王(聖徳太子)」というように2つの名前が書かれている例は皆無である。それどころか専門書でも聖徳太子と書かれているのである。
 たとえば東京堂出版の詳細な日本史年表増補3版にも1ヶ所だけ「厩戸豊聡耳皇子(聖徳太子)を皇太子とし、摂政とする」とあるだけで、あとはすべて「聖徳太子、斑鳩宮を造営」というようにすべて「聖徳太子」だけである。前者は、日本書紀に「厩戸豊聡耳皇子」とあるから書いただけのことである。
 聖徳太子の名称は余りにも我々日本人の記憶に深く刻み込まれている。聖徳太子の十七条憲法とか、太子信仰とか、また明治以来長く紙幣の肖像にも使われてきた。
 指導要領はこのような日本人の感覚を薄めようとしているとしか思われない。

 ●文科省の底意感じる改定
 そのほか、現行指導要領には「大和朝廷による統一と東アジアとのかかわり云々」とあるのを、「大和政権(大和朝廷)の成立と東アジアとの関わり」と変え、「大和朝廷」ではなく「大和政権」という言葉を使わせようとしたり、「元寇」を「モンゴルの襲来(元寇)」としたり、従来あった江戸時代の「鎖国」という言葉を完全に消してしまったりしている。
 教科書は学術研究書ではない。広く一般的通説や常識を教えるものである。今回の指導要領の改訂は何かの底意を感じさせずにはおかない。