日本の報道は安倍政権の圧力で自由が一段と制限されている―とする事実誤認の報告書が米欧や国連で相次いでいる。
今年に入ってからだけでも、まず3月に米国務省が2016年版「人権報告書」を公表、この中で「日本のメディアへの圧力強化に懸念が強まっている」と指摘した。これは、昨年の国会で高市早苗総務相が、政治的公平性を欠く報道を重ねる放送局については電波停止を命じる可能性を否定しなかったことをとらえたものだ。
野党議員からの度重なる質問に対し、高市総務相は放送法の趣旨に沿って従来通りの答弁を繰り返したのだが、これをもって安倍政権による放送メディアへの「圧力が強まっている」としているようだ。意図的な曲解としか言いようがない。岸田外相は来日したティラーソン米国務長官に対し、事実誤認を指摘している。
●根拠希薄な「報道の自由度」日本72位
4月にはパリに拠点を置く国際NGO (非政府組織)「国境なき記者団」(RWB)が2017年版の「世界報道の自由度ランキング」を発表、このなかで日本は世界180カ国の内、72位と低ランクに位置づけられた。報道の自由度が高いトップグループは欧米先進国が占めており、テロ事件のため取締強化に動いた英国、米国、フランスも自由度が低下したというが、それでも38位から45位にとどまっている。
その日本もかつては11位にランクインしたことがある。それは民主党政権が誕生した翌年、2010年のことだ。安倍政権になった直後の2013年からはランクがどんどん下がりはじめた。これは民主主義の手続きによって生まれた安倍一強政治を「強権」と批判する野党民進党や朝日新聞などいわゆる国内リベラル派のスタンスを反映するRWBの政治偏向を表しているのは明らかだ。
第3には、これから国連人権理事会で協議が行われる予定の、特別報告者ディヴィッド・ケイ教授(カリフォルニア大学アーバイン校)による「言論の自由に関する報告」がある。その概要については、昨年4月、1週間の日本訪問の後、発表した暫定報告で明らかにされている。
この中では、放送メディアが政府の圧力を受け、著名なニュース・キャスターらが降板“させられた”とした報告もある。しかし、朝日新聞のインタビューに対し、何らかの圧力を受けたと答えたキャスターは皆無だった。
降板したキャスターが、安倍政権下で成立した安保法制、特定秘密保護法などに批判的だったので、それが降板圧力につながったとケイ教授が事実確認もせず臆断したとしか思えない。取材した相手がリベラルで、安倍政権に批判的な人たちばかりだった可能性がある。同教授が面談したジャーナリストら日本側の関係者は人数が限られ、匿名となっているのも不信感を煽るだけだ。
●不当な対日批判、修正要求にもどこ吹く風
問題は、3つの報告が相互に影響しあっていることだ。例えば、米国務省の人権報告は、ケイ教授の暫定報告を引用しており、また、RWBとケイ教授にも相互依存の関係がある。さかのぼれば、1994年、国連人権委員会に提出された慰安婦問題に関する「クマラスワミ報告」の重大な事実誤認に遠因があり、国務省報告やケイ教授らに広がった。実際、ケイ教授は昨年の暫定報告発表の後、カリフォルニア大学アーバイン校で、コネティカット大学のアレクシス・ダッデン教授を迎え、日本の言論に対する脅威と題した公開討論会を開いている。ダッデン教授は慰安婦問題で対日批判を主導している。
田中英道・東北大名誉教授を会長とする「不当な日本批判を正す学者の会」は、5月2日、学者グループ50人を組織して声明を発表、ケイ教授や国連人権理事会、その他の関係組織に対し、事実に基づく報告を行うよう強く要請した。「学者の会」が懸念しているように、クマラスワミ報告は、2014年、肝心の朝日新聞自身が報告の根拠となってきた慰安婦の強制連行などを誤報と認め、謝罪したにも関わらず、修正されず、世界中に流布してしまっている。日本の報道の自由に関する「ケイ報告」も、第2のクマラスワミ報告として、同じ道をたどりかねない。