公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.05.18 (木) 印刷する

改憲に関する広報戦略に疑問 島田洋一(福井県立大学教授)

 安倍晋三首相が5月8日、衆議院予算委員会において、「国防軍や公共の福祉、基本的人権の尊重といった自民党憲法改正草案の3点は取り下げるのか」という長妻昭議員(民進)の質問に対し、「自民党総裁としての考え方は、相当詳しく読売新聞に書いてあるので、熟読してもらってもいい」と答え、物議を醸した。
 憲法論議を政争の具にすべきではない。素直に読んでみようと思って、インターネット上を探したが、見つからない。読売のネット版は有料サイトであり、契約者以外は検索できないようになっているのかも知れない。
 だとすれば、熟読を勧めた者の責任として読めるように手当てすべきだろう。それをしないなら、安倍首相の発言は明確に失言ということになる。たまたま読売新聞の購読者でなければ分からない、確認のしようがないというのでは、国民への説明責任を果たしたといえないからだ。

 ●考えは明確で手軽に入手可能な形で
 憲法9条に自衛隊の存在を明記した第3項を加えるなど、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」とした5月3日の憲法集会に自民党総裁として寄せた安倍首相のビデオメッセージは、国民的論議を盛り上げていく上で意味のある行為と評価したいが、上記のような状態では、改憲に積極的な人々をも苛立たせることになりかねない。
 安倍首相は周囲に、「政治は現実だ。いくら立派なことを言っても実現できなければ意味がない。私の改正案が自民党案と違うと批判する人は、公明党を説得してから言えばいい」と語っているという(産経新聞5月17日)。
 確かに石破茂氏らは、単に安倍批判をするのではなく、2項削除、国防軍記載(その方が本筋であることは間違いない)で改正が実現するよう、党内外を説得する行為において先陣を切るべきだろう。その結果、仮に2項削除で改憲が実現した場合、胸を張って安倍首相の「敗北主義」を批判すればよい。
 党内の分裂を怖れて、一切議論を進めない姿勢の民進党執行部は論外だが、安倍首相及び周辺も、自らの意見が国民一般に、明確に、手軽に入手可能な形で伝わるよう、広報戦略を練り直すべきだろう。