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2017.05.22 (月) 印刷する

改憲発議にウイング広げた総理の提案を評価す 西修(駒澤大学名誉教授)

 この5月3日、安倍晋三総理は、自民党総裁として、民間憲法臨調(櫻井よしこ代表)と美しい日本の憲法をつくる国民の会(共同代表、三好達、田久保忠衛、櫻井よしこの各氏)が共催した第19回公開憲法フォーラムにビデオ・メッセージを発した。現在でも多くのテレビ番組で放映されている。その反響の大きさに主催者の一員として、感慨深いものがある。
 メッセージでは、憲法第9条1項と2項をそのままにして、新たに自衛隊の存在を明文で憲法に書き込むこと、高等教育までの無償化条項を導入すること、そしてその他の議論をふまえて、2020年の憲法改正施行をめざすことが強調された。
 総理がしびれを切らしたことの表明といえる。憲法審査会は、「憲法改正原案の審査」を目的として発足してから、すでに10年を経ようというのに、いまだに「勉強会」と「討論会」の域を脱していない。しかも回数がいたって少ない。
 1月に召集された今国会において、衆議院憲法審査会は4回開かれたにすぎず、参議院憲法審査会にいたっては1回も開かれていない。野党は引き延ばしを図り、与党がそれに歩調を合わせてきたというのが現実だ。百年河清を俟つがごとく、いつまとまるか埒があかない。各種世論調査では、多くの国民が憲法審査会での活発な審査を求めてきたにもかかわらず、国民の負託に応えてこなかったといえる。そんな現状に限界を感じ、2020年という目標年を設定したと思われる。

 ●国家緊急事態条項もぜひ俎上に
 私自身は、2019年を目標年に設定してもよいのではないかと考える。なぜならば、2000年から05年にかけて両院に設置されていた憲法調査会で、すでにさまざまの論議がなされ、論点がかなり整理されているからである。その論点のなかで、現代に必要な改正項目を限定することは、それほど長い時間がかかるとは思われない。
 憲法改正の項目として、今回、安倍総理が自衛隊の存在と教育の無償化をあげたことは、公明党と日本維新の会を意識したことはいうまでもない。両院でそれぞれにおいて総議員の3分の2以上の多数を得なければ、国民に発議できないのであるから、ウイングを広げようと努めるのは当然である。
 ただ、幼児教育から大学を含む高等教育までの無償化については、恒久的な財源確保が必要であり、麻生太郎財務相は、財源確保と公平性という面から、消極的な発言をしている。
 国民に提起すべき項目を何にしぼるか、具体的にどのような案文にするかは、改憲容認政党が知恵を出し合わなければならない。私自身は、国家緊急事態条項もぜひ俎上に載せるべきであると考える。わが国をめぐる国際情勢の不安定要因に加えて、震災大国という自然条件にかんがみ、国家の緊急時にあって、国民の安全確保のために憲法上、何ができるのかを定めておくことは、立憲国家として当然の措置である。ちなみに私が1990年以来、今年4月に施行されたタイ憲法にいたる103カ国の新憲法を調査したところ、国家緊急事態条項を欠いている憲法は、皆無だった。

 ●自衛隊は9条をそのままに2を加えよ
 第9条をどうすべきか。私自身は、自衛戦力の保持は合憲であるとの立場をとっており、そのような解釈に変更されるのがベストであると考える。それはおき、第9条1項、2項を残し、自衛隊を憲法に組み込むとすれば、どんな規定になるか。一つの試案を提示しておきたい。
「現行の第9条をそのまま残し、新たに第9条の2を加える。
第9条の2 
①日本国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、自衛隊を保持する。
②自衛隊の最高の指揮監督権は、内閣総理大臣に属し、自衛隊の行動については、政治統制の原則が確保されなければならない。
③自衛隊の編成及び行動は、法律でこれを定める。」
 第9条をそのまま残したのは、いろいろな意味において、同条がこの憲法の象徴的条項だからである。第9条の2の1項は、現行の自衛隊法第3条を援用した。今後の参考に供したい。