公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.07.04 (火) 印刷する

岐路に立つPKOと自衛隊の海外派遣 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 6月28日、内閣府と青山学院大学が共催する「国際平和協力法25周年記念公開シンポジウム」に参加した。
 元国連事務次長の明石康氏の「グローバルな枠組みの中でこそ初めて平和が享受できる」という主張は、一般論としては納得できるものの、南スーダンのように指導者間の内紛で治安が悪化している場所に何故貴重な自衛官の生命の危険を晒してまで派遣しなければならないのか理解できない。

 ●派遣人員の3倍は必要という現実
 パネリストの1人であった折木良一元統合幕僚長が「実戦経験がない自衛隊にとって準戦状態の現場に隊員を派遣することは、実体験を積ませる上で良き訓練になる」という発言は確かにその通りであるが、ひとたび自衛官に犠牲者が出たら自衛隊の海外派遣は数歩後退することになるであろう。
 折木氏はまた、「訓練・整備(休養)のローテーション上、派遣兵力の3倍が拘束されることになり、昨今の我が国周辺の厳しい安全保障環境の中で優先順位を考慮しなければならない」、「未だに武器使用に関して極めて厳しい制約がある」とも発言していたが、まさに同感である。自衛隊員の定員が増えない中で、北朝鮮や中国の脅威が目の前に迫っている昨今、自衛隊員を海外に派遣するような余裕はない筈である。
 アデン湾での海賊対処のために海上自衛隊の艦艇や航空機を派遣していることは我が国の国益に叶っている。しかし昨今、海賊が減少している状況下で派遣兵力の3倍の兵力を充当することが現下の厳しい安保環境下において許されるのかは疑問である。

 ●変わりつつある貢献の形
 イラク復興支援への自衛隊派遣は、同盟国支援という観点から当時は必要であった。しかし、平和安保法制制定後は、北朝鮮情勢の緊迫化に伴って米艦防護のような形で同盟国としての貢献を行なっており、今後あのような派遣に対しては慎重であるべきだろう。
 聴衆の学生から、「中国が全世界で国連平和維持活動(PKO)を展開する中で日本の立ち位置は?」という質問もあった。パネリストからは的外れの回答しかなかったが、仮に海外に自衛隊を派遣し続けるとしたら、ジブチを始めとした戦略的要衝にカウンターバランスとしての睨みを効かせることが唯一の理由になるかもしれない。
 南スーダンからの撤収以降、自衛隊のPKO派遣は司令部要員を除いていなくなり、今後の自衛隊の海外派遣は岐路に立たされている。同時に世界的にも、嘗てPKO先進国であったカナダ、豪州、北欧諸国からの派遣は、ぎりぎりのところまで縮小している。派遣大国はいまや発展途上国や新興国に移っている。自国の存在感をアピールする場でもあるが、背景には、国連から支払われる報酬が重要な外貨獲得源になっている現実もあるという。国連PKO活動そのものが岐路に立っている。