戦時国際法の第一人者で国基研客員研究員でもある色摩力男氏がこのほど、『日本の死活問題~国際法・国連・軍隊の真実~』(グッドブックス)を上梓した。色摩氏は、駐チリ大使などを歴任した元外交官で、退官後は評論家として辛口の言論活動を展開している。わが国の死活問題を法的観点から解説した本書は、平易な言葉ながら国防の本質を突く。
本書はまず、わが国には「国際連合へのおめでたい幻想がいろいろあり」、国連至上主義を掲げがちだが、「真実はかなり違う」と指摘する。その上で、色摩氏は、「平和は、漠然とあるのではなく、相手国との間にあるもので」、具体的に交渉して得られるものだから、「憲法に平和を希望すると書いたところで、平和が訪れることにならない」などと、現実離れした理想論を厳しく戒めている。
「現実離れした理想論」の一例として色摩氏は、戦時国際法に焦点をあてる。氏は、ルパート・スミスの『軍事力の効用』(原書房)を引用し、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)などによる市民を巻き込んだ戦闘を、新たな「戦争のパラダイム(概念上の枠組み)」と指摘する。「私たちの生活の場に仕掛けられた戦闘に対しては、軍隊(自衛隊)のみならず、われわれ国民一人ひとりも対応を迫られ(中略)戦時法規の知識も必要」になるとの警告である。
●戦時ルールを知らぬ日本人
そもそも戦時法規を明文化したジュネーブ諸条約、および追加議定書(わが国も批准)では、締約国はできるかぎり周知を図ると約束している。だが現状は真逆であり、国民を啓蒙するどころか学校教育さえままならない。
現実離れの例としては、防衛法制もある。昨年施行された平和安保法制は、自衛隊の法的問題を浮き彫りにした。色摩氏はこれを、「極めて精緻な構成と文言」で、「行政機関に対するようなこと細かな法律」と皮肉交じりに表現する。自衛隊は「世界で唯一、行政機関として作られてしまった」実力組織であり、その結果、「行政機関の基本的な法体系を機械的に適用され」、「非常事態に対応するには適当でない法体系」になってしまったと嘆く。
いずれの国も、好むと好まざるとにかかわらず、一旦戦闘状態に入れば、軍民を問わず戦時国際法が直接適用される。にもかかわらず、国民は日ごろ、戦時のルールを何も知らされていない。自衛隊も肝心の武器使用などは、国内の精緻な行政法体系で縛られており、いざという時、他国軍とまともに戦えるのか疑わしい。だからこそ、自衛隊が戦時国際法という国際ルールのもとでわが国を守れるよう憲法を改正すべきなのだ。
色摩氏は複雑に絡んだ現状を明快に切り分ける視座を提供している。国際社会の現実から目を背け、その場しのぎを重ねてきたことを批判する指摘はどれも重い。