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2017.07.25 (火) 印刷する

中国共産党政権の「統一戦線」に警戒を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 中国とロシアの両海軍は22日、バルト海で合同軍事演習の開幕式を行なった。演習は第1部と2部に分かれており、今回は第1部。第2部は9月中旬に日本海とオホーツク海で行われるというから穏やかではない。
 これまで中国共産党は、まず主敵を定め、それに協力できる国・勢力と「統一戦線」を組み、主敵が衰退した後に、統一戦線を組んできた相手を攻撃するという歴史を重ねてきた。

 ●主敵の敵と組んで戦わせ疲弊待つ
 中国共産党は、旧日本軍の侵攻に際して国民党と国共合作で統一戦線を組み、主として国民党軍に日本と戦わせて自らは兵力を温存。砕氷船に続く船のように日本の敗退後は、日本軍との戦いで疲弊した国民党を台湾に追い出した。朝鮮戦争時は、主敵が米国となり当時のソ連と統一戦線を組む。
 しかし、1960年代から中ソ紛争が表面化して主敵が当時のソ連となると、日米との関係改善を行なって旧ソ連に対抗した。中国首脳は当時、日米安保を是認し、日本の防衛費増大を叫んだ。1979年にA級戦犯の靖国神社合祀が明らかになった後も、歴代総理が20回以上、靖国参拝したにも拘らず、1985年まで文句を言わなかった。
 1971年にニクソン訪中を実現させた中国は、1972年の日中国交正常化後の平和友好条約交渉では、当時のソ連を念頭に「反覇権」条項の盛り込みに拘った。1991年のソ連崩壊後は、日米を主敵としてロシアと協力し、現在に至っている。従って、中国の靖国問題等へのクレームは御都合主義であって歴史問題ではないことは明らかである。

 ●相互不信の中露間に日本が楔を
 上記のような歴史をロシア側も良く認識している。両国間の海軍演習は、価値観を共有する日米のそれとは異なり、お互いの軍事技術を偵察するインテリジェンス獲得目的の方が大きい。興味深いことに、事前の図上演習参加ロシア艦はフリゲート艦1隻だけである。また両国の国益が衝突する北極海航路開発や北朝鮮問題への主導権争いに関しては、両国は鋭く対立している。
 ロシアの対中接近は、クリミアを併合して以降の西側の制裁による孤立から脱却する狙いがある。昨年末の米大統領選への関与も、中露連携戦略の一環であると思われる。
 安倍晋三首相としては、比較的良好なプーチン大統領との関係を活かし、中国の目論見についてもロシアとしっかり話し合うことで、本音は疑心暗鬼の塊ともいえる中露連携に楔を打っていくことはできないものか。