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2017.07.26 (水) 印刷する

「加計」をめぐる“疑惑”は全くの虚構だ 原英史(政策工房代表取締役)

 加計問題をめぐる混乱が収まらない。安倍晋三総理の友人が理事長を務める学園のため、国家戦略特区を利用した利益誘導がなされたのではないかという“疑惑”だ。前川喜平・前文部科学次官が「行政が歪められた」として会見を開き、あたかも真実であるかのように国会論戦やマスコミ報道が続いている。
 私は、国家戦略特区ワーキンググループ(以下「特区WG」)の委員を務めている。獣医学部をめぐるここ数年の政策決定プロセスには、直接当事者として関わってきた。国会の閉会中審査にも参考人として出席したが、直接の当事者の立場からいえば、こんな“疑惑”は全くの虚構だ。

 ●文科省が岩盤規制を維持する理由
 真実は、かいつまんで整理すれば、以下のとおりだ。
 ひとつは、獣医学部の新設に関する規制緩和がなぜ必要だったかだ。獣医学部の新設は52年もの間、なされてこなかった。認可申請があっても一切認めず門前払いする規制があったからだ。しかも、これは、国会で議決された法律ではなく、文科省が独自に定めた告示に基づく。あまたの岩盤規制の中でも、あまり例をみない異様な岩盤規制だった。
 規制の根拠は、獣医の数は足りている、すなわち需給調整にあるとされてきた。しかし、この説明はすでに破綻している。現実には、産業動物獣医師の偏在、公務員獣医師が確保できない、製薬業界で獣医師が足りないといった問題が顕在化してきたからだ。これは民主党政権下でも認識されていたことだ。
 特区WGでは、平成26年以降、文科省と規制の合理性について議論してきたが、結果として同省から、規制を正当化する根拠は示されなかった。

 ●準備も熱意も条件満たしたのは加計のみ
 次に、なぜ加計学園だけが残ったかである。
 規制の根拠が明らかでない以上、本来は、告示の規定そのものを廃止するのが筋だ。規制とは国民の権利を制限することだから、当然ながら、根拠不明な規制はあってならない。しかし、獣医師会の反対などがあり、文科省の腰は重かった。
 そこで、平成27年6月に日本再興戦略(閣議決定)の中で検討期限を定め、特区限定での前進を図った。いわゆる「4条件」と呼ばれているのは、その中で検討ポイントを示したものだ。さらにその後、獣医師会が「1校限定」を強く求めたため、最終段階で、当面これも受け入れた。何もできないよりは、一歩でも前進すべきと考えたからだ。
 「1校限定」とする以上、今治市が先行することは当然だった。そのほかに新潟市と京都府・京産大も提案していたが、新潟市の提案は具体化が進んでおらず、京都府・京産大は平成28年10月に具体的提案を示したばかりだった。準備期間と熱意の面で、今治と京都に大きな差があったことは、のちに京都府知事も認められたとおりだ。その後のことだが、京産大は今年7月に新設提案を自ら撤回している。

 ●本筋の政策論争は素通りの国会
 以上が政策決定の経過だ。利益誘導など一切介在していない。特区WGのほか、節目では国家戦略特区諮問会議と区域会議で政策決定し、すべて議事録(議事要旨として公表されているが、ほぼ議事録に近い)が公開されている。
 これに対し、前川氏や野党、多くのマスコミは、「総理のご意向」文書、総理補佐官とのやりとり、今治市職員の官邸訪問などを持ち出して、あたかも「加計ありき」で利益誘導がなされたかのごとき主張・報道をされてきた。しかし、総理や官邸が「加計ありき」の圧力をかけた事実は何ひとつ示されていない。
 そして、何より、本筋の政策決定は、すでに述べたとおりで、これに何ら影響は及ぼされていない。7月10日と24、25日になされた閉会中審査で、自民党の平井卓也議員、青山繁晴議員、小野寺五典議員らが質問され、このことは改めて明確にされた。加戸守行・元愛媛県知事も参考人としてたびたび答弁され、長年にわたって提案されてきた経緯を詳細に説明された。

 ●マスコミの“疑惑”騒ぎは永遠に
 ようやく“疑惑”騒ぎも終わりかと思ったが、マスコミ報道では、相変わらず「総理が知ったのが1月20日か」といった本筋とかかわりない話ばかりで、疑惑は深まったなどと言っている。本当に残念なことだ。
 私自身も閉会中審査で、経過を可能な限りでお話ししてきた。25日の参考人席では隣が前川氏だったが、維新の浅田均参議院議員の質疑が終わったとき、突如私に「(加計1校だけでなく)2校目、3校目もぜひやってください」と力強く声をかけてこられた。私からは「ずっとそう言ってきたのです」とお答えしたが、どこまで本心だったかはわからない。仮に、これまでの経過を前川氏もようやく得心したとするなら、閉会中審査の成果だったのかもしれない。
 以上のとおり、加計問題は、虚構でしかなく、いずれは収束するはずだ。ただ、問題は根深い。本質は、伝統的な既得権構造を守るのか、改革するのかだ。さまざまな分野の岩盤規制は、官僚機構、族議員、特定業界が一体になって生み出され、維持・強化されてきた。いわゆる「鉄のトライアングル」だ。この結果、特定の既得権者の利益が、一般国民や消費者の利益よりも優先されてきた。加戸氏にいわせれば「歪んだ政策」がなされてきた。

 ●正念場迎えた既得権益の壁打破
 岩盤規制は、天下りとも密接に連関する。天下りはトライアングルの重要な結節点であり、強い規制権限があるからこそ天下りを受入れ、天下りOBがいるからこそ権益擁護がなされる。前川氏が、規制改革に異を唱えたことと、天下り斡旋に関わってきたことは、偶然別々に生じた事象ではないだろう。
 安倍総理は、岩盤規制改革を掲げてきた。決してまだ十分ではないが、電力、農業、医療などの諸課題に取り組んできた。また、第一次安倍内閣以来、天下り規制の導入、内閣人事局の創設も進めてきた。トライアングルの中核である官僚機構の改革だ。
 ところが、いま、岩盤規制改革にはいわれなき疑惑の目が向けられ、天下り規制は組織的に公然と無視され、内閣人事局は「官邸に物いえぬ状況を生んだ」と批判されている。改革を進められるか否か、重大な分岐点だ。