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2017.08.18 (金) 印刷する

「9条の2」追加の改憲案を支持する(上) 百地章(国士舘大学特任教授)

 5月3日の安倍晋三首相(自民党総裁)の発言をきっかけに、一気に浮上したのが、9条1.2項には手を付けず、憲法に自衛隊の保持を明記するという新9条改正論であった。
 これに対する国民の反応だが、5月段階では、朝日、毎日の調査で反対が賛成をわずかに上回っていただけで、読売、産経・FNN、共同の各世論調査では賛成が50数%あり、いずれも反対を20ポイント前後引き離していた。また、内閣支持率急落後も、産経・FNN(7月25日付)の調査では、自衛隊明記に賛成が55%、反対が31%、NHKの18・19歳を対象とした調査(8月10日放映)でも、賛成が34%、反対が16%、さらに読売・早大共同調査(8月11日付)でも賛成が53%、反対が44%と、いずれも賛成が反対を上回っていることは注目すべきであろう。

 ●改憲へ首相の決意は変わらず
 一方、肝腎の自民党の動向であるが、5月以降、加速していた改憲の動きは、都議会議員選挙での惨敗や安倍内閣の支持率急落の後は、トーンダウンした感がある。首相は当初、秋の臨時国会に改正案を提出する方針を示していたが、8月に入ると「スケジュールありきではない」「改憲日程は党に任せる」と発言、内閣としては当面、経済問題を重視する構えだ。憲法改正といっても、その前提となるのは民生の安定であり、内閣支持率の回復も必要である。そのためには景気の浮揚は不可欠だから、この選択は自然であり、妥当といえよう。
 問題は、安倍首相の憲法改正に対する意気込みだが、信頼できるいくつかの情報によれば、首相の改憲への決意はいささかも変わっていない。そして、その安倍総裁の強い意向を受けて、今後、改正草案作りや与党・公明党対策に当たるキーパーソンが、高村正彦副総裁だと思われる。
 高村氏は『月刊Hanada』9月号の『日本を託せるのは安倍晋三しかいない』の中で、「いままさに総裁の発言によって初めて改憲に向けて機は熟しつつあります。これは画期的なことです」「九条改正に向けて議論が全く動かない現状に対し、『自衛隊の存在明記』という抑制的で実現可能な案とともに野心的な目標期限を設定したところが、リアリスト・安倍晋三の面目躍如です」と語っている。

 ●「高村・北側ライン」への期待
 高村副総裁は、一昨年、平和安全法制の審議に際し、与党・公明党との調整に当たり、北側一雄公明党副代表とともに、法案の成立までこぎつけた最大の功労者である。安倍首相はこの「高村・北側ライン」を重視しており、自民党の憲法改正推進本部のインナー会合では、柴山昌彦首相補佐官を通して、「憲法改正論議は高村さんと北側さんのパイプを生かすべきだ。これは首相官邸の意向です」(日経6月14日付朝刊)と伝えさせている。
 その高村氏は、内閣支持率の低下が改憲論議に及ぼす影響について問われ、「全く影響ないと考えるのは能天気だが、だからといって最初から当初の予定を放棄するのは腰抜けだ」とまで言っている(毎日7月29日付朝刊)。
 とはいえ、公明党の山口那津男代表は改憲発議に慎重論を唱えており、決して楽観は許さない。しかし、今後、党内での改正案作りが順調に進み、内閣支持率が回復していけば、来年の通常国会での改憲発議ということも十分期待できよう。また、もし、民進党の代表に前原誠司氏が選出されれば、「野党第一党の賛成を得た上で」と主張している自民党内の慎重派を巻き込むことも可能となると思われる。
 それ故、如何にして両院の3分の2以上の賛成が得られるような改正案を作成するかが、今後の最大の課題となろう。

「9条の2」追加の改憲案を支持する(下)