公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.08.18 (金) 印刷する

北のICBMエンジンはウクライナ製か 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 昨年7月26日付の本欄で、「ウクライナは虐められているだけの国か?」と題して、ウクライナから中国に莫大な兵器輸出が行われていることを書いた。その中で筆者は、一昨年7月に東京で開かれた国際会議で、その事実を当時のウクライナ第一副外相、ナタリア・ガリバレンコ女史に問い質したところ彼女は「知らない」と回答を拒んだことも併せて紹介した。今回、国際戦略問題研究所(IISS)の専門家が北朝鮮の新型ICBMエンジンがウクライナ製のものと酷似していると指摘したことから、改めてウクライナの兵器輸出の問題がクローズアップされている。

 ●中国にも軍事技術を提供
 旧ソ連時代、ウクライナにはソ連の兵器工場が多く存在していた。現在もその工場と技術者が多く存在する。ウクライナは2014年に親欧州連合(EU)派が政権奪還後、ロシアとの関係が悪化、その結果としてロシアに兵器が輸出できなくなり、兵器工場の従業員達は生活のために軍事技術を中国や北朝鮮に売り始めたものと思われる。
 また、今年の春頃、「ロシアが軍艦のエンジンを(ウクライナから輸入できなくなって)中国から輸入したが、トラブル続き」というニュースも流れた。
 北朝鮮の弾道ミサイル・ムスダンは、旧ソ連の潜水艦発射弾道ミサイルSS-N-6が元になっているが、北朝鮮は何回も発射実験に失敗し、後にウクライナから導入したシンプルな新型エンジンに変えて、発射に成功した。その時期とロシア・ウクライナ関係が悪化し始めた時は奇妙に符合している。

 ●世界屈指の武器輸出大国
 前述した国際会議で在京のウクライナ大使は、「2015年の安倍総理ウクライナ訪問後、対中武器輸出は止めた。」と明言していた。ところが、その裏でもっと危険な北朝鮮にICBMエンジンの技術を闇で提供していたことになる。
 ウクライナ当局者は、「ロシア人がウクライナ製エンジンを北朝鮮に仲介した」と言っているが、ICBMエンジンはロシア製とウクライナ製では構造が相当異なる。発言の真偽のほどは疑わしい。
 ウクライナ製の巡航ミサイルは、スーダンやコンゴ民主共和国といった国々にも輸出されている。ウクライナは世界でも屈指の武器輸出大国であり、今後とも対中・対北武器輸出に関しては目を光らせ続けなければなるまい。