公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.09.05 (火) 印刷する

民進党に政権取りの覚悟はあるのか 梅澤昇平(尚美学園大学名誉教授)

 民進党の代表選挙が行われ、下馬評通り、前原誠司氏が新代表に選出された。むしろ枝野幸男氏を勝たせて民進党を割った方がいい、という裏の声も支持団体の労組関係者にはあったようだが、そうはならなかった。
 2人の候補の立会演説をテレビで見たが、訴えで決定的に欠落しているものが2つあった。1つは、北朝鮮のミサイル発射問題にどう対処するかが、ない。もう1つは、次の選挙の話ばかりで、政権への準備をどうするかが、ない。

 ●国防問題は対立軸にならぬ
 民進党は、かつての社会党や民社党の正統な後継政党ではないが、比較しやすいのは西欧の社民(民社)勢力だろう。英国の労働党やドイツの社民党が、日本の社会党の流れと異なるのは、防衛問題を与野党の対立軸とせず、内政問題を政権選択の対立軸の中心にしてきたことだ。
 ドイツでは戦後、国防問題では与野党が時間をかけて合意を形成し、緊急事態法制まで整えてしまった。英国でも国防問題で深刻な与野党対立は聞かない。国防体制をしっかり整えることは与野党問わず国民に対する当たり前の責任だ。
 ところが、日本では、いつまでも自衛隊は憲法違反かどうか、日米安保条約を認めるか否かの議論ばかりだ。社会党は2度も大きな分裂を起こしたが、いずれも講和条約、安保条約をめぐるものだった。土俵に上がる前に、土俵下で仲間割れを始めるようなものだ。これは今の民進党でも尾を引いている。
 安保法制反対などは、その象徴だ。だから、軍事挑発で緊迫化している北朝鮮への対応など、直面する防衛問題に何も言えない。共産党と同じ土俵下にいまだいる。これで政権取りを目指す政党と言えるのか。

 ●目先の選挙より政権政策磨け
 もう1つは、民進党が目指すものは何かということだ。次の選挙なのか、次の政権なのか。英労働党はブレア氏が保守党から政権を奪回するまでの18年間、ドイツ社民党はシュレーダー政権になるまでの16年間、それぞれ野党で堪えた。そして政権の準備をした。
 自らを鍛えることなしに、安易な大衆迎合に右往左往してばかりでは、政権を取っても大変なことになる。小選挙区制にはそうした政権交代の危うさも同居している。
 民主党時代の鳩山由紀夫政権は、所得補償という名目で農家へ現金をばら撒き、沖縄の米軍基地移転では「最低でも県外」と、出来もしない公約を振りまいた。後始末が大変だったのは、いまだ記憶に新しい。
 自民党のミスで政権は転ぶこともある。目先の選挙対策で耳当たりのいい話を振りまいてばかりでは、真の受け皿になれない。次の時代を切り開く政権政策をしっかり示していくことこそ、国家、国民への責務だろう。

 ●ありえぬ共産党との選挙協力
 今年上梓した、『“革新”と国防』という小著でも書いたが、社会党時代に書記長、民社党では初代委員長を務めた西尾末廣(1891年~1981年)らは、常に「次の政権準備」を考えていた。西尾は社会党の大会でも「政権を取ろうとする公党は軽々しく再軍備反対、憲法改正反対を論ずるべきではない」(昭和28年1月20日付朝日新聞)と声を張り上げた。いまでも驚くべき直言であり正論だ。
 実はこの問題は、いまの民進党にも続いている。選挙に2、3度負けても、次の時代の政策を実現するのだという決意と準備なしに、野党として存在価値があるだろうか。
 今回の代表選では、共産党との選挙協力も争点の1つとなったが、そもそも自衛隊解散を綱領に掲げる政党と、政権をともにできるのか。かつての社会党ですら、国政選挙での協力は原則としてやらなかった。国政選挙での協力は政権をともにする覚悟なしにはできない。前原新代表は、さすがにこれには消極的なようだが、貧すれば鈍するともいう。はたして党内のこれまでの流れを本当に断ち切れるのか。原則なき党内宥和を優先すれば待っているのは自滅の道だろう。