政局は目下、めまぐるしい動きでついていけない。まだ二転三転ありそうだ。これまでの常識では考えられない滅茶苦茶な動きだ。
●総理候補なしで政権奪取とは
その第1は、憲法には、総理大臣は国会議員から選出とあるのを、国会議員でもない人が選挙にも出ず、国政政党の代表として「政権交代を目指す」としていることだ。これでは、政権奪取は目指しませんよ、と言っていることと同じだ。無責任ではないか。
誰が総理候補か、見えない選挙は、有権者を馬鹿にしている。もし、小池百合子都知事が総選挙に出るなら、これはこれで都民を愚弄することになる。都知事はまだ1年。豊洲市場移転、東京五輪など、大問題を放り投げることだ。
第2は、民進党の突然の「解党」ともいえる事態だ。最終的に「解党」か、「分党」かはまだ時間がかかるだろう。しかし、はっきりしたのは、党の代表が、「希望の党」にみんなで流れ込もう、民進党としての「公認」はすべてやめると明言したことだ。
これは、日本の議会政治史上、前代未聞の出来事だ。つい先日、選ばれたばかりの党代表が、突然、事実上の「解党」を宣言したのだ。悪く言えば、次々と下船するものが出て、乗っている船が傾いてきたので、船長が、みんな海に飛び込み、近くにいる、出来立ての新しい「船」に乗り移れ!と言うのと同じだろう。ひどい状況だ。
●新進党の解党時と重なる混乱
ここで思い起こすのは、かつて新進党が解党した時のことだ。平成9年末、当時の小沢一郎代表が、「解党」し「純化」したい、各人は自由に進路を選べ、と突然言い出し、大混乱となった。
3年間で解党となった直接の原因は、目前に迫った参議院選挙の比例区で、新進党に参加していた公明党グループが、新進党ではなく、公明党の「分党」である「参議院の公明」をつくるというので、小沢氏がブチ切れたのだ。
結局、小沢氏のグループは「自由党」をつくり、羽田孜氏のグループは「太陽党」を、民社党系の中の労組系は「新党友愛」を、それぞれ立ち上げて飛び出し、公明グループは元のさやに戻って「公明党」を復活させた。八つ裂きというが、まさに8党派に分裂した。
この時、旧民社党グループは鳩首会議を続けたが、当時のリーダー米沢隆氏は、落選中であったこともあり、各メンバーは、それぞれ、出処進退は自分で決めてくれと言った。これは政党のリーダーとしての責任放棄ではないか、と筆者は憤慨したものだ。
政治家、とくにリーダーは、政治家としての理念や政策のこだわりが“いのち”ではないのか。それがないなら、「選挙屋」に過ぎない。議員とし受かれば何でもいい、では国民を愚弄している。
前原代表は、議員総会で、「政策」「理念」を語ったのか。新聞報道では、ない。あるのは、「安倍の一党支配を倒す」だけ。倒してどうするのか。憲法改正は、安保法制は、など、何も語っていない。みんな、バスならぬ新船に乗り遅れるな、というのでは、政権を目指す政党のリーダーとしては失格だ。
●情緒的アピールだけが目立つ
それに、反対意見らしいものも少なく、結局「満場一致」で了承とは、あきれ果てた。昔の政党なら殴り合いの乱闘だろう。日本社会党などは、党大会で乱闘、分裂を繰り返した。社民党出身の辻元清美、阿部知子両氏らの女性議員、筋金入りの赤松広隆氏らベテラン議員はどう動くのか。党内のいわゆる「リベラル」は一体何だったのか。
みんな「新しい船」に乗せてもらおう。政策や理念は後だ。新聞報道では、まず合流で「政策は終わってからゆっくり考えよう」といった議員がいたという。情けない。「乗船を拒否」される議員は、またヨットやボートに乗り、「政党難民」になるのだろうか。
この点で、小池百合子都知事はしたたかだ。民進党まるまるの「合流」は認めない、と明言。特に、憲法や安保法制などへの態度を重視すると言っているのは評価できる。
しかし、気になるのは、小泉純一郎元総理に悪知恵を付けられ「原発ゼロ」を言い出していることだ。大東京のエネルギー源に責任を持つ知事の発言としてはお粗末だ。日本は東日本大震災以来、原発が稼働しない時期が続き、世界から石油、ガスを買いあさっている。昔からの火力発電所は、悲鳴を上げる位、フル稼働を続けている。すでに16兆円の燃料費が外に出ている。世界では原発の増設が進んでいる。CO2削減の上からも脱石油は不可欠だ。あの民進党すらそこまでやらなかった。これで「連合」を逃がしてしまった。情緒的な反原発は危険だ。
「希望の党」も、綱領や基本政策がよく見えない。情緒的なアピールだけではないか。政権を取って何をするのか。国民の選択をまじめに仰ぐ重大な責任がある。