公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2017.09.26 (火) 印刷する

官任せの景気回復では実感持てない 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁がタッグで進めてきた異次元の金融緩和。円ドル相場はいまのところ円安方向で安定しており、平均株価も2万円を挟むレベルまで回復した。いわゆる「アベクロ景気」は、9月で景気拡大が58カ月となり、戦後最長記録の「いざなみ景気」(73カ月)を超える可能性もでてきた。
 しかし、国民の側にその実感は乏しい。賃金は上がらず、将来を考えれば、ついつい財布のひもも固くなる。企業の設備投資なども低調な中で、なぜ景気は拡大し続けるのか。現在の成長は、市場における民間需要に根ざした本来の自律的な経済成長とは言い難い。成長率も主要先進国の中で大きく見劣りしている。

 ●もうけが人件費に回らない
 財務省「法人企業統計」の年報によれば、「いざなみ景気」と「アベクロ景気」の企業の売上の伸び率を比較してみると、前者の方が大幅に高い。「いざなみ景気」の2002~07年度の売上の伸び率平均は2.9%で、とりわけ2004年度と2005年度にはそれぞれ6.4%、6.2%と高い伸び率を達成している。これに対して、「アベクロ景気」では、企業の売上の伸びは、2013~16年度の前年比の平均は1.5%にとどまる。
 一方で、企業の収益率は、「アベクロ景気」の方が増加している。財務省の2017年4~6月の法人企業統計調査によると、全産業(金融業、保険業除く)の経常利益は前年比22.6%増で、経常利益(季節調整値)に関しては、3四半期連続で過去最高を更新した。
 ここから読み取れる理由の一つは、労働分配率の低下である。財務省の2017年4~6月の法人企業統計調査によると、資本金10億円以上の大企業の分配率は43.5%。高度経済成長期の1971年1~3月以来、約46年ぶりの低水準である。
 人件費はたしかに増えてはいる。だが、四半期ベースで最高益を記録した収益環境と比べると賃上げの勢いは鈍い。設備投資も、主にデフレによる実質金利の上昇により抑制されてきた結果、短期的には減価償却の負担も抑えられ、経常収益を拡大した。
 さらに、「アベクロ景気」で注目すべきは、財政・金融政策による下支えが大きく貢献していることだ。金融緩和で住宅投資や帰属家賃(持ち家を貸し出したと仮定した家賃)が増えている。「いざなみ景気」時に比較して、公的需要の寄与率は大きい。また付加価値ベースで考えると、2015~17年は原油価格が1バレル50ドル前後で低位安定していることが、成長率を押し上げている。

 ●過剰な内部留保はマイナス
 以上のように、高い収益を上げながら、賃上げにも設備投資にも極めて消極的で、政策に支えられた企業の実態は、経済の再生にとって大きな足枷となっている。(2017年8月23日付の本欄の拙稿「日本の経営者よ、企業家精神取り戻せ(上)(下)」参照)
 日銀の資金循環統計によると(「2017年第2四半期の資金循環」日銀、2017年9月20日)、民間非金融法人企業の金融資産の内、現金・預金は、254兆円に上る。また、法人企業統計によれば、資本金1千万円未満の企業(除く金融保険業)の現預金残高は211兆円(2017年3月末)に達している。その60%は、資本金1億円未満の企業である。つまり、大企業のみならず、中小企業も十分な資金余剰を抱えている状況にある。
 財務省が、9月1日に公表した2016年度の法人企業統計によると、企業の利益剰余金(金融業、保険業を除く)、いわゆる内部留保は前年度よりも約28兆円多い406兆2348億円と、過去最高を更新した。日本の景気は回復基調を続けているが、「内部留保」は一層、積み上がっている。
 過剰な内部留保は経済の活性化にとってマイナスであり、企業は、適正に活用すべきである。ただし、政府は民間の経営判断に介入せず、少子化対策の加速や規制緩和の推進など企業が投資しやすくなる環境の整備に徹すべきである。政府も企業も、市場経済の本質を見つめ直す時である。