公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.10.26 (木) 印刷する

「加憲」は改憲方法として、やはり誤りだ 髙池勝彦(弁護士)

 今回の総選挙の結果、安倍晋三内閣が信任を得て、広い意味での改憲勢力が4分の3以上の議席を得たことは御同慶の至りです。
 私は、憲法改正を支持する立場から度々投稿してきましたが、安倍さんの「加憲」方式には反対してきました。これは安倍さんの憲法改正の動きに水を差すつもりではなく、むしろ後押しをするつもりだったのです。今もそのつもりです。
 広い意味での改憲勢力と言いましたが、これはマスコミがそう言っているからですが、そこでの憲法改正論は教育無償化や一院制の導入など多岐にわたっております。
 しかし、全面改正ならともかく(私は全面改正を主張していますが)、現在の国民投票法の下では改正点ごとに国民投票にかけなければなりません。これも、はたして正しい解釈なのかどうか国民投票法を読んでも不明ですが、少なくとも全面改正は不可能であるとすると、そんなに多くの改正はできません。だとすると、もっとも重要で必要な改正は9条ということになります。

 ●自衛隊の合憲解釈をごまかすな
 一方、今回の選挙で、立憲民主党が躍進したといわれています。といっても55議席ですが、同党は今回の選挙公約で、「専守防衛を逸脱し、立憲主義を破壊する、安保法制を前提とする憲法9条の改悪に反対する」と明確に述べています。それでは彼らは自衛隊をどう見ているのか、それが問題です。
 護憲派といわれている長谷部恭男早大教授は、新聞報道によれば、自衛隊は既に国民の間に定着しているから、加憲など必要ないといっているとのことですが、この長谷部氏が言う「自衛隊は国民の間に定着している」という意味はなんでしょうか。自衛隊は憲法違反の存在ではないということでしょうが、その場合の9条の解釈はどうなっているのか、判然としません。
 自衛隊が憲法違反ではないとするには2つの解釈しかありません。1つは政府解釈です。9条2項は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」といっているが、軍隊とは近代戦を有効に遂行する能力のある組織であり、自衛隊の有する「軍備」はそのようなものではないから合憲であるというものです。
 もう1つは、いわゆる芦田修正と言われるものです。9条2項に「前項の目的」とあることから、侵略戦争のための戦力は持てないが、自衛のための戦力は持つことができるという解釈です。
 9条改正には反対だが、自衛隊の存在は認めるというのなら、どちらの解釈をとるのかをはっきりさせるべきです。もし、政府解釈をとるなら、自衛隊の「軍備」が近代戦を戦う戦力ではないなどという解釈はごまかしでしかありえません。自衛隊が違憲であるというのなら、自衛隊の廃止を主張すべきです。

 ●国民投票で姑息な手段は不要
 芦田修正については、私は解釈としては成り立つと思いますが、だから憲法改正は不要だというのでは独立国家として余りに情けないし、正しい方策とは思えません。普通の国である我が国は、自衛のためにも戦争を防ぐ抑止の面からも軍隊を持つのは当然であると私は考えます。その考えから安倍さんの加憲には反対です。
 世論調査では、自衛隊の存在を認める者は過半数以上ですが、軍隊を持つことに賛成する者は半分に満たないとのことです。すると、加憲でもって憲法改正を発議しても国民投票を乗り切れるのでしょうか。国民投票ではごまかしだなどという猛烈な反対運動が展開されるでしょう。私はやはり正面切って普通の国には軍隊は必要なのだ、それが平和をもたらすのだ、と国民に訴えるべきだと思うのです。
 憲法学者の4割以上が自衛隊を違憲であると考えており、違憲の可能性があると考えている憲法学者はさらに多数います。こんな異常な状態を国民が理解しないことはないと思います。