公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.12.11 (月) 印刷する

中台の軍幹部は通じている? 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 国家基本問題研究所と台湾安全保障協会の両シンクタンクによる第2回日台交流会議が12月7日、台北で行なわれ、筆者も参加した。
 今回は、本年10月に米シンクタンク「プロジェクト2049研究所」から出版された『The Chinese Invasion Threat(中国侵略の脅威)』について意見交換を行なった。
 同書によれば、「2020年までに中国は台湾侵攻の準備を終える」とされ、産経新聞が本年11月18日付と20日付の朝刊1面で「紅い統一工作」と題する特集記事の中でも大きく取り上げている。中国、台湾双方の公刊資料に基づき、中台の戦力比較、中国の侵攻と台湾の防衛シナリオについて、綿密な検証がなされている。

 ●退役将官たちの意外な交流
 本書から窺えるのは、中台の熾烈なにらみ合いの構図であるが、台湾安全保障協会との今回の意見交換では意外な事実も判明した。
 2014年9月に中国本土で行われた抗日戦勝記念祝賀行事に、台湾から中華民国軍の退役将官が約40名も参加したというのである。中華民国軍を退官した将軍達は、頻繁に中国本土に行って人民解放軍の人達とゴルフに興じているともいう。
 中華民国軍の主要幹部と意見交換してきた筆者の元同僚が、その内容が中国本土に筒抜けになっているといぶかしげに語っていたことを思い出す。また、米国は最近、最新兵器を台湾に供与したがらなくなってきているが、その理由は、最新兵器の情報が中華民国軍から人民解放軍に漏れる事を恐れているからだという。
 確かに中国共産党と国民党は、かつて国共合作で共に日本と戦った間である。これまで中華民国の国防部及び外交部の主要ポストは国民党が占めてきた。人民解放軍が中国共産党の軍であるのと同様、中華民国軍は国民党の軍と言っても良い。しかし、現在中華民国の国民は「自分は台湾人であって中国人ではない」とする人達が大多数を占めており、とりわけ若い人達にその傾向が強い。
 今回の意見交換では、日本と台湾と真の軍事交流が成立するためには、中華民国軍が国民党の軍ではなく、台湾人のための軍となる必要性をあらためて感じた。

 ●若者の対中警戒感も希薄化か
 台湾では大学を卒業しても、なかなか就職口が見つからない。そこに目を付けた中国は、約500人の就職できない台湾の大学卒業生を中国本土に招き、台湾の平均的給料の倍を支払って処遇し、親中派にして再び台湾に返すという懐柔戦略をとっている。この結果、中国に対する警戒感が希薄な若者が増えていると聞いた。現在の台湾にとって最大の問題は、中国の侵攻に対する「危機感の欠如」であると台湾安全保障協会の人達が口々に語っていたのが印象的であった。