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2018.01.10 (水) 印刷する

くすぶる不満、大規模デモ再燃の懸念も 野村明史(拓殖大学海外事情研究所助手)

 2017年12月末より、イランの各地で政府に対する大規模な抗議デモが発生した。28日に北東部のマシャド、ニシャプール、シャーハルードなどの都市で始まり、29日には、首都テヘラン、シーア派の聖地としても知られるコムやエスファハーン、ケルマンシャー、シラーズなど全土に拡大した。このような大規模デモは2009年のアフマディーネジャード氏の大統領当選に対し、対抗馬であった元首相のムサーヴィー氏側が不正を主張して拡大した「緑の運動」以来である。

 ●貧困に喘ぐイラン国民
 今回の抗議デモは、保守強硬派を支持する貧困層の失業や貧困問題への抗議に端を発し、反体制運動へと発展した。
 ロウハーニー大統領は2013年の大統領選で、国民生活をより良くすることを公約に掲げ、保守穏健・改革派の支持の下、当選した。しかし、イランは核開発とそれに伴う経済制裁、そして、イラク、イエメン、シリア、レバノンへの介入や支援により、経済は低迷し、未だ国民は貧困に喘いでいる。抗議の中には「ロウハーニーに死を」「独裁者に死を」というプラカードを掲げる過激な者たちも現れた。
 一方、テヘランでは最高指導者ハーメネイ師や現体制支持派による経済改革を要求するデモも同時に行われ、ロウハーニー氏の改革が国民の満足を得ていないことも明白となった。
 事態を重く見たイラン革命防衛隊は、抗議デモの鎮圧に乗り出し、デモの扇動に利用されているとして、イラン国民の利用も多いとされるテレグラムなどのSNSを遮断した。その結果、1月2日を山場にして、抗議デモは早くも鎮静化へと向かい、7日、革命防衛隊は、抗議デモの鎮圧を宣言した。
 改革派のイラン国会議員マフムード氏は、抗議デモによる拘束者は3千人超であると述べている。イラン内務省は、抗議デモの参加者は4万2千人を超えると発表。拘束者の数からもデモの規模はそれなりに大きかったと見られる。具体的な背景など未だ不明な点は多いが、主な指導者や勢力による組織的なデモではなく、日ごろの不満を爆発させた民衆によるものであったので、持続力はあまりなかったとも考えられる。

 ●政策のかじ取り一段と困難に
 ロウハーニー氏は、今回の抗議デモは経済問題だけでなく、保守強硬派が支持するネット規制の自由化など社会的要求も含んでいたと述べ、保守強硬派をけん制した。今後、両者の政治的対立がエスカレートすれば、海外からの投資なども減少し、経済状況がより悪化することが懸念される。
 また、サウジアラビアと対立するイランは、影響力拡大のためアラビア半島の一角を占めるイエメンなどへの支援を続けている。一方で国内の貧困対策もしっかり実行しなければならず、さらに難しい舵取りを迫られることになるだろう。