公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.01.15 (月) 印刷する

カナダ抜きでもTPP11の実現目指せ 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 米国を除くTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)=TPP11の交渉は、日本が主導して昨年11月11日に大筋合意したが、3月上旬までの署名式に向けて残された課題の最終調整を図る首席交渉官会合が、今月下旬に東京都内で開かれる。政府は、TPP11の経済的及び政治的意義を踏まえて、その実現に背水の陣で臨む必要がある。

 ●まず日本が速やかに承認を
 米国のTPP離脱当初は、TPPの実現が危ぶまれたが、その流れを短期間で引き戻し、TPP11の実現に漕ぎ着けた日本外交は、世界にその存在感を明確に示すことができた。
 ただし、TPP11は「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」として、各国の国内承認手続きを新たに経る必要がある。日本も、2016年12月9日にTPPの国会承認を得て、国内手続きは完了しているが、TPP11は新規の協定であり、改めて承認手続きが必要となる。
 CPTPPは今後も継続して交渉すべき案件を抱えているほか、主要参加国のカナダが国内事情から署名に消極姿勢を見せている。そのためにも、日本は速やかに承認手続きを完了し、各国の承認を促していく必要がある。
 TPP11は11カ国のうち6カ国が国内手続きを完了すれば発効する。11カ国すべてが承認手続きを終えることが重要であることは言うまでもないが、必要なときには、カナダの承認に拘泥することなく断を下すべきである。

 ●日欧EPAとの連携も視野に
 米国の離脱にもかかわらず、TPPの重要性への理解は国内外で広がっている。日本経済新聞が、環球時報(中国)、毎日経済新聞(韓国)と共同で実施した「日中韓経営者アンケート」調査によると、韓国政府はTPPへの正式な参加表明はしていないが、韓国企業の48%が「米国抜きでも参加のメリットに期待している」と回答し、日本企業では83.7%が期待を示した。
 同時に、中国が熱心な東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に対しては、中国企業の期待は51%であるのに対して、韓国企業は8%、日本企業は4.3%に止まった。
 TPPについては、その他にも将来の参加意思を示している国、参加を検討している国が複数ある。1月3日、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、英国は欧州連合(EU)離脱後にTPPに参加することに関心を示している、と報じた。
 TPP参加国はこれまでのところ、環太平洋地域の国のみとなっているが、英国際貿易省のハンズ閣外大臣はFTに対し、英国の参加を妨げる地理的な制約はないとの見方を示した。その実現性は現段階では不透明であるが、英国の参加如何にかかわらず、TPP11は、2019年の発効を目指す日欧の経済連携協定(EPA)との連携も視野に入れるべきである。この点については、2017年7月10日付の本欄でも『日欧EPAをTPP11拡大に繋げよ』として書いた。

 ●中国のエセ自由主義を排せ
 中国は習近平国家主席がトランプ政権による米国の内向き政策の間隙をついて「保護主義反対と自由貿易の支持」を打ち出し、揺さぶりをかけている。一党独裁体制下の中国に、こうしたまことしやかな発言を許すような状況は正さなければならない。「一帯一路」構想によって覇権の拡大を図る中国が、自由経済の推進者であるはずがない。
 今この流れを変えられるのは日本しかない。エセ自由主義者の台頭を許さないためにも、TPP11の実現と拡大が日本にとっても焦眉の急である。