公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.01.18 (木) 印刷する

鵜呑みにできぬ韓国発表の「情報」 島田洋一(福井県立大学教授)

 1月11日付の産経新聞に「南北対話中軍事行動ない 米韓電話会談 トランプ氏言明」と題するソウル発の記事(桜井紀雄記者)が載った。一部引いておく。
 <韓国の文在寅大統領は10日夜、トランプ米大統領との電話会談で、北朝鮮の平昌五輪参加で合意した9日の南北閣僚級会談の内容を説明、トランプ氏は「南北間の対話が行われている間は、いかなる軍事的行動もない」と述べた。韓国大統領府が明らかにした。>
 トランプ氏が「述べた」という断定が気になる。事実とすれば、今後南北は「対話」のポーズを取るだけで、アメリカの軍事行動を阻止できることになる。しかし、「韓国大統領府が明らかにした」情報となれば、まず疑ってかかる必要があるだろう。

 ●根拠不明な「軍事行動なし」発言
 実際、トランプ氏の口からもホワイトハウス報道官の口からも、「いかなる軍事的行動もない」との発言は聞かれない。トランプ氏自身がテレビカメラの前で語った南北対話に関する言葉は次の通りである。原文と共に引いておく。
 <アメリカにとってのみならず、世界にとっての成功につながるなら結構なことだ。今後数週間ないし数カ月、様子を見ていくことになろう。(Hopefully it will lead to success for the world-not just for our country, but for the world. And we'll be seeing over the next number of weeks and months what happens.)>
 北朝鮮側の狙いが、オリンピックを人質にした南の取り込み、日米韓の分断、制裁緩和、核ミサイル実戦配備のための時間稼ぎなどにあるのは明白だ。そのことが分からないほどトランプ政権も愚かではない。「最大限の圧力」を掛ける方針を変えてはおらず、北の対応次第で、南北の「対話」が続いていようがいまいが軍事力行使もあるだろう。
 何より問題なのは、「いかなる軍事的行動もない」とトランプ大統領が言明したなどと発表する韓国政府の姿勢である。

 ●「協力金」欲しい北、渡したい南
 北が大陸間弾道弾を通常軌道で撃つなどで朝鮮半島の緊張が激化すれば、五輪観戦ツアーをキャンセルする外国人が相次ぐだろう。ただでさえ韓国国民の間で盛り上がりを欠く大会は、経済的に破綻する。
 一方、北が参加すれば、「美女応援団」目当てに軽薄な韓国人の男性客が押し寄せるだろう。北としては自らの行動次第で、韓国に客を「呼び込んでやる」こともできるし、「追い払う」こともできる。当然、その差額、すなわち「協力代」を韓国側に要求してくるだろう。文在寅政権も、あらゆる「合法的な」ルートを用いて支払おうとするだろう。
 その目的を達するため、韓国政府は今後、「北は和解に向けて動きたがっている」「アメリカ政府も軍事オプションを封印し和解に向けて動きたがっている」という趣旨の「情報」を発信し続けると思われる。五輪をめぐる動きは手始めに過ぎない。
 冒頭の論点に戻れば、韓国政府発表の「情報」は今後益々歪みを増していく。決して鵜呑みにしてはならない。