世界で最も権威あるニュース週刊誌の一つである英国のエコノミスト(1月13日発売号)が、今年150周年を迎える明治維新について、偏見に満ちた記事を掲載した。明治維新は日本を近代化し、欧米列強の植民地になることから救ったと美化されているものの、日本のアジア侵略の種をまいたことを忘れてはならない、と講釈を垂れている。
明治維新よりはるか前にアジアを侵略し、今日のインドから東南アジア、オーストラリアに至る広大な地域を植民地にした英国のメディアにだけは言われたくないせりふだ。
●自らの植民地支配は棚上げ
エコノミスト誌の記事は日本について、「欧米の宴会に供される肉」にならず、「宴会に招かれる客」になった、と日本の領土拡張を皮肉っているが、アジアを食い物にした「宴会」で上席に座っていたのが英国であったことを棚に上げている。
同じ植民地国家でも、フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏の日本に向けるまなざしはずっと優しい。「日本が帝国主義的で軍国主義的だった二〇世紀の前半は、ヨーロッパの大国も同じことをやっていました。当時の欧州は今とは比べ物にならないくらい帝国主義的、膨張主義的だったのです。当時の情勢を俯瞰してみれば、日本はそういった世界の趨勢に追随したようにしか見えません」(『問題は英国ではない、EUなのだ』文春新書201~202ページ)。これがバランスの取れた見方ではないか。
●政府は誤報を放置するな
記事は、沖縄住民をアイヌ民族と並べて、明治政府に土地を奪われ、文化を抑圧された少数民族として扱うなど、他にもおかしな点がある。
特に長崎県・端島(通称・軍艦島)の炭鉱などで朝鮮人や中国人の「強制労働」(forced labour)があったのに、安倍晋三首相はこれを否定しているようだと書き、批判の矛先を首相個人に向けていることが気にかかった。
2015年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界遺産」に端島を含む「明治日本の産業革命遺産」が登録されるに当たり、韓国は、端島炭鉱では朝鮮人が強制労働させられたとして登録に反対した。その後、日韓間で妥協が図られ、日本政府代表が「日本が徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」と述べて、韓国側の主張に一定の配慮を示した。
日本政府代表の発言は、厳しい環境の下で「働かされた」(forced to work)というものだったが、同誌は、「強制労働」を認めたと韓国側の見解に沿った解釈をしているのだ。
そう解されかねない言葉を使ったのは日本側の失態だが、外務省は「働かされた」というのは「強制労働」を意味しないと主張している。エコノミスト誌の記事は誤解に基づいていることになる。日本政府は世界中に読者を持つ有力誌の誤報を放置してはならない。記事の訂正を申し入れるか、反論の寄稿を申し出たらどうか。