マティス米国防長官は19日、ワシントンで演説し、トランプ政権で初の「国家防衛戦略」を公表した。長官は「アメリカの国防の第一の関心事は今やテロではなく大国間の競争だ」と述べた。
演説は筆者の母校でもあるジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院で行われたが、これを聴いた友人は「鉄のカーテン崩壊以来、中国、ロシアに対する注意を振り向けてくれた」との感想メッセージを送ってくれた。
同日、国防戦略を報じた米CBSニュースは、中国が内陸部のゴビ砂漠で米海軍横須賀基地の米艦、嘉手納基地のF-22戦闘機、三沢基地の航空機格納シェルター、在日米軍基地内の燃料タンク等を模擬目標として攻撃訓練を行なっていると、衛星画像を使って伝えた。
同じ頃、米海軍は南シナ海で中国が領海と主張するスカボロー礁周辺海域で航行の自由作戦を行い、米通商代表部(USTR)は中露に関する年次報告書を発表し、米国が、両国の世界貿易機関(WTO)加盟を支持したのは「誤りだった」と指摘した。一連の行動からトランプ政権の対中政策を垣間見ることができる。
●北朝鮮も優先課題に
今回の国防戦略は、ブッシュ大統領時代の2008年6月以来のもので、その前は2005年3月に出されている。2005年版では戦略環境の認識として、伝統型、非正規型、破滅型、混乱型の4つの挑戦を顕在化する脅威とし、2008年版でも当面の挑戦を台頭する勢力との衝突よりもテロとの闘い、即ち非正規型を強調し、重み付けをしていた。
ところが今回の国防戦略では、テロとの戦いは米国にとって最優先ではなくなり、第1に中国、次いでロシアといった現状変更(修正主義)勢力、そして「ならず者政体」としての北朝鮮やイランに優先順位が移ったことが最大の特徴と言える。北朝鮮に関しては生物・化学兵器の脅威に関する記述も見逃せない。
特に中露の軍事技術向上が米軍事力の優位を脅かしているとして、陸海空軍の戦力強化のみならず、核兵器やサイバー、宇宙などの分野での軍事投資を呼びかけている。それが履行されなければ、米国の世界的影響力は低下するとの強い懸念を示した。今後公表されるであろう「核態勢の見直し」がどのようなものになるのかが注目される。とりわけ、「戦略的には予測可能に、しかし作戦的には予測不能に」というキャッチフレーズが印象的であった。
●インド・太平洋同盟を強調
同盟強化の項目では、これまで第1の同盟と捉えていた北大西洋条約機構(NATO)に先立って、「インド・太平洋同盟の拡張」が最初に置かれ、次いでNATO、中東、西半球、アフリカと続いている。これは、昨年12月に公表された国家安全保障戦略とも軌を一にしている。その意味では、オバマ政権時代の2012年に公表された「新たな国防戦略指針」に示されたアジアへのリバランス政策は踏襲されていると言える。
ここでは同盟国との強固な協力が不可欠としつつも、「同盟国の責任共有で米国の負担は減る」として、同盟国の公平な負担についても強調している。日本は一昨年に平和安保法制を施行して、限定的ではあるが集団的自衛権の行使を可能とする法改正を行った。安保法制について一部野党は、いまだに「戦争法案」とレッテル貼りに余念がないが、北朝鮮の弾道ミサイル発射に対する日米協力ひとつとっても、安保法制の存在は心強い。菅義偉官房長官が「安保関連法がなかったらと思うとぞっとする」と周囲に語ったというのは本音だろう。