捕鯨を肯定的に捉えたドキュメンタリー映画「ビハインド・ザ・コーヴ~捕鯨問題の謎に迫る」が2月下旬、ロンドンの「国際映画製作者祭」で最優秀監督賞を受賞し、八木景子監督の報告会を兼ねた上映会が23日、都内で開かれた。映画は、和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を批判する映画「ザ・コーヴ(cove 入り江)」が2010年の米アカデミー賞を受賞したのに反発して、5年近くかけて製作された。米、英、豪を中心に展開される一方的な反捕鯨運動に警鐘を鳴らす効果をあげている。
●矛盾する欧米の捕鯨批判
海外上映版には“The Quiet Japanese Speak Out”(静かなる日本が発言する)と副題がついているが、これは反捕鯨グループの批判に対する日本側の無反応、事なかれ主義に対する八木さんの怒りであり、映画製作の原点ともなっている。
しかし、八木監督は、イルカ追い込み漁を一方的に批判する反捕鯨グループの政治的ともいえる偏向と同一視されるのを避け、「ザ・コーヴ」監督のルイ・シホヨス、主演のリック・オバリ、そして過激な反捕鯨活動を展開する「シー・シェパード」創立者のポール・ワトソンの3氏も登場させて、バランスをとっている。こうした公平な映画作りも高く評価されたようだ。
地元、太地町の空気もよく描かれている。上映会会場の笑いを誘ったのは、ある町民の次の言葉だ。「昔は、クジラの知能が低かったのかな」。さんざんクジラを捕獲してきた欧米諸国が、今になって「クジラ、イルカは知性が高い」と日本の捕獲については非人間的だと非難していることを皮肉ったものだ。
●「日本を救う映画だ」
八木さんの映画は、15年9月の「モントリオール世界映画祭」で海外初公開された後、各国に評価が広がった。これまで英、独、仏、スペイン、アラビア語など22カ国語に翻訳され、189カ国へ配信された。八木監督のもとに寄せられた海外からの好意的な感想は、
「初めて反対側の意見を聞けた」
「捕鯨に悪いイメージをもっていたが、違う見方が出来るようになった」
「アメリカのインディアンのようにならずに自分たちの文化を守って欲しい」
などに大別される。
日本人からは「よく作ってくれて有難う。日本人も発信しなければ」「感動した。鯨食文化だけではない日本を救う映画だ」などの感想が寄せられているという。
八木さんによると、反捕鯨団体は「ザ・コーヴ」の続編を企画しているという。製作費2000万円は寄付で募るようだが、まだ400万円弱にとどまっているという。
一方の八木さんは、今回の映画製作費は、映画配給会社を辞めて得た自らの退職金をつぎ込んでまかなった。政府は日本の対外広報予算を大幅に増やしたにもかかわらず、八木さんの映画製作にはびた一文支出していない。外務省など政府の対外発信の目は、いったいどこを向いているのか。