公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.16 (月) 印刷する

武力行使は解決策にならないのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米英仏がシリアの化学兵器製造・貯蔵施設に対して100発以上の巡航ミサイルを打ち込んだ。これに対して化学兵器の使用に対しては何ら解決策にならないとか、トランプ大統領が女性スキャンダルを躱すためだとかいうメディアの論調がある。だが筆者はそうは思わない。
 この攻撃は化学兵器を依然として製造・保有している北朝鮮や、中国に対する有効なシグナルでもある。抑止には、事後の再行動を踏みとどまらせる懲罰的抑止と、やっても無駄とする拒否的抑止の2種類あるが、今回の攻撃は前者の意味で有効だ。その証拠に中国では早速、官制メディアによる攻撃批難記事のオンパレードになっている。

 ●撃沈で止んだ北の工作船活動
 筆者が防衛庁情報本部長であった2001年12月、奄美沖で海上保安庁が北朝鮮工作船を撃沈した。それまでは、海上警備行動を発動した1999年3月の能登沖事案を含め、数限りない北朝鮮工作船の出没事案があったが、この撃沈事件以後は一切発生していない。懲罰的抑止力が功を奏したと理解すべきであろう。
 その北朝鮮に対しても、今回の攻撃は米英仏の「有言実行」というメッセージを送る意味合いがある。ネットニュースのThe Diplomatは12日、「トランプのシリア決定の東アジアでの意味合い(What Trump’s Syria Decision Means for East Asia)」という記事で同様の内容を掲載している。
 とりわけ英国は11日にタイプ23型フリゲート艦「サザーランド」を横須賀に入港させ、揚陸艦「アルビオン」も北東アジアに向け出航させた。本年末には同じタイプ23型フリゲート艦である「アーガイル」を北朝鮮のいわゆる「瀬取り」の取り締まりに充てるという。またジョンソン英外相は、2020年代に運用を開始する空母「クイーンエリザベス」を東アジアに派遣する方針を示している。
 フランスも仏領ポリネシアをはじめ太平洋上に領土を持っていることから太平洋国家であるとして日本との防衛協力を推進している。今年1月には日仏外務・防衛閣僚協議(2プラス2)が行われたばかりである。

 ●中東と東アジア情勢はリンク
 筆者が在米日本大使館の防衛駐在官だった1990年代後半、米国のイラクに対する兵力の集中や武力攻撃があったが、その度ごとに国防総省に出向き、東アジアにおける米兵力が手薄になっていないかの確認を行ったものだ。中東と東アジア情勢は常にリンクしているのである。
 中国は、米国が中東に足を取られる機会を狙っていることは第2次台湾海峡危機が米国のレバノン介入時に生起していることからも明らかである。今回も戦略的パートナーであるロシアを支援する目的で、米国を牽制するために南シナ海に海軍艦艇を集結させ、日米首脳会談の18日から台湾海峡でも演習を開始しようとしているのである。