公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.17 (火) 印刷する

TPPは米国復帰より拡大を目指せ 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 トランプ米国大統領は、日米首脳会談を目前に控え、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)復帰の〝検討″を指示し、揺さぶりをかけてきた。その真意は知る由もないが、米国内でも株価を変動させるほどの驚きをもって受け止められた。
 日本政府は、トランプ大統領の思惑に翻弄されることなく、各国との緊密な連携の上で、TPP11協定(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP))のつつがない発効に全力を傾注すべきである。

 ●米は依然2国間協定重視
 トランプ大統領のTPP復帰への言及は、今年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)出席に先立つCNBCとのインタビューに始まる。ダボス演説で大統領は、「米国第一主義」が孤立主義ではないと主張。米国の繁栄は世界の繁栄に繋がるとして、そのためには、公正で透明性のある共通ルールを順守する者こそが報われる通商ルールの再構築が不可欠であると強調した。演説は中国を念頭に置いたものだが、大統領は多国間貿易協定より、2国間貿易協定を重視する考えを改めて示した。
 今回、トランプ氏がTPP復帰の検討を指示するにあたっても、米国にとって「かなりいい協定になれば前向きに考える」という基本姿勢は変えていない。トランプ氏には、TPPが米国に有利な内容へと改変される期待があるように思われるが、周知のように3月8日には、米国を除く11カ国がTPP11協定に署名し、その発効が視野に入ってきた。
 当然、米国といえども、TPP11には新規加入の形であり、再交渉を求める資格はない。日本のみならず、各国も再交渉には否定的である。米国の復帰には高いハードルがあり、交渉は長期を要しそうだ。

 ●TPP11の合意は譲るな
 にもかかわらず、トランプ大統領は、TPP復帰の検討を指示した。一見ちぐはぐに思える姿勢の背景には、貿易摩擦が加速する中、11月の米中間選挙を睨んで国内世論、特に農業関係者を味方につけ、中国を牽制する狙いがある。日本が絶対に避けるべきは、米国が復帰する可能性があるという口実で、TPP11の発効を遅らせることである。
 TPPをめぐるアジア・太平洋諸国のムードは変わり始めている。わずか1年前は米国の参加を熱望していた国々が、今では米国抜きでも公正で透明な貿易体制の確立を目指して力を注いでいる。それは、多国間協定が、国際ルールを軽視する中国への対抗手段として必要であるという確信を深めていることが大きい。加えて、トランプ氏の一方的で強引な通商政策が米国離れを加速させ、皮肉にも多国間協定の意義をますます認識させる結果になっていることは否定できない。
 日本が米国の復帰よりも優先すべきことは、TPP参加国の拡大である。既に、新たに複数の国がTPP参加の意思を表明している。英国も欧州連合(EU)離脱後のTPP参加に関心を示している。TPPの拡大は、必然的に米国の復帰を促す。TPPは本来、米国の対アジア戦略の経済面での柱であったが、今やインド太平洋地域における法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の確保を目指す上で、最も重要な多国間協定になりつつある。
 安倍首相には、TPP11の合意では譲らざる決意で臨むことを要望する。