公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.05.08 (火) 印刷する

北の漂着船には難民輸送の狙いも 山田吉彦(東海大学教授)

 南北首脳会談を経て、北朝鮮に対し融和的な発言をするメディアが増えている。しかし、北朝鮮に拉致問題解決へ向けて動く気配は無く、むしろ日本批判を鮮明にしているようだ。また、北朝鮮の対日戦略においても不安な要素が多い。

 ●海難ではありえぬ軽い破損
 近年、北朝鮮の木造漁船が漂着する事件が増加している。一昨年は66件、昨年は104件、今年に入り既に40件近く発生している。ただ、一昨年と昨年、今年の漂着船の情況に違いがある。一昨年の漂着船では、生存者および原型を留めている船がほとんどなかったのに対し、昨年は42名が生存し、その内、18名は日本海沿岸部に上陸している。また、今年に入り漂着した船の中には、破損状況が軽微なものが多く、単なる海難事故とは考え難い。
 今年、2月に石川県志賀町に漂着した長さ約5メートルの小型船、4月に同県能登町に漂着した同じく長さ約5メートルの小型船は、荒天により遭難し漂着したとしては、いずれもほぼ原型のままである。また、同じく志賀町の海岸に座礁した長さ12メートルの漁船は、エンジンおよびスクリュー、エンジンとスクリューを結ぶシャフトが漂流前から人為的に取り外されていた。
 その証拠にシャフトを覆うパイプには水漏れを防ぐ布が詰めこまれていた。スクリューおよびシャフトの取り外しは洋上では困難な作業なのである。また、前述のような小型船が、遭難した場合に無傷で日本沿岸まで漂着することはまずない。これらのことから、漂着した北朝鮮漁船は、最初から日本に着くことを目的として漂流させた可能性がある。

 ●石油不足で偏西風を利用か
 現在、北朝鮮は経済制裁による深刻な石油不足の状況にある。2017年に北朝鮮が入手した石油は、密輸品も含め100万キロリットル程度と考えられる。日本が使う2日分にしか相当しない量である。当然、軍部の使用する石油にも制限がある。有事の際、海から人員を他国に搬送しようとしても燃料が無いのだ。しかし、10月末から1月末にかけてロシア側から日本側に吹く北西風に合わせ出航すれば、漂流しながら日本にたどりつく可能性が高い。
 漂着船の大半は、北朝鮮の政権の指示による、日本海中心部の大和堆周辺の荒天の海域で無謀な漁業に送り出された漁船であろう。しかし、前述のように漂着船の中には北朝鮮の日本侵入、日本への難民輸送の実験のために、あえて漂流させた船が含まれていると考えられる。漂着船の情況を再度確認し、漂着船対策を再度構築すべきである。
 しかし、海上保安庁や各都道府県警は、各方面への対応に繁忙であり手が回らない状態である。
 衛星の更なる利用、離島や沿岸部に遠隔監視装置を設置するなどの対策を早急にすべきである。そして、計画的にかつ、大胆に海上警備機関の増強を進める必要がある。