公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.05.01 (火) 印刷する

北朝鮮以上に警戒必要な中国 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 本年頭に『米中海戦はもう始まっている』(マイケル・ファベイ著、赤根洋子訳、文芸春秋)という本が出版された。著者は軍事ジャーナリストで、副題は「21世紀の太平洋戦争」。帯には「アメリカの親中派はこうして敗れた」とある。
 内容は、数年前に出版されたマイケル・ピルズベリー著の『100年マラソン』と同様、これまで「米国は関与することにより中国も変わって行くであろう」との政策で臨んできたが、一向に中国の態度は変わらないばかりか一層覇権を求めてきているというものである。
 2000年近く中国と付き合ってきた日本人からすれば、「米国は今頃そんなことがわかってきたのか」という印象である。

 ●敵の裏庭に手を出す覇権国
 シカゴ大学の現実主義政治学者ジョン・ミアシャイマー氏によれば、「覇権国は敵の裏庭に手を出す」という。4月23日に開いた国基研の防衛問題研究会では、米安全保障問題の研究家リチャード・フィシャー氏が、最近チリでの兵器展に参加して中国が如何に南米諸国に兵器を輸出し、軍事的な影響力を高めているかについて語ってくれた。既に国内に中国の衛星追尾施設を置いているアルゼンチンや、反米政権のベネズエラやボリビアで、その傾向が顕著とのことであった。
 逆に米上院は4月26日、中国政府の干渉を批判し、チベット仏教徒の人権と宗教の自由を支援する決議を満場一致で採択した。チベットと並んで中国が核心的利益としている台湾に関しても米上院は今年2月、ハイレベル政府職員の台湾訪問を是とする「台湾旅行法」を全会一致で可決している。3月にはトランプ大統領が署名を終え、6月にはボルトン安全保障担当大統領補佐官の訪台が予定されている。
 これに対抗する形で中国は最近、台湾海峡周辺で空母「遼寧」を含む実弾訓練や爆撃機による周回活動を行っている。

 ●対日関係改善にも裏事情が
 貿易面でも中国は傍若無人な攻勢を強めている。米商務省は4月16日、中国通信機器大手のZTEがイランや北朝鮮に対し通信機器を違法に輸出していたとして、米企業によるZTE製品の販売を7年間禁止すると発表している。また、同じく中国通信機器大手のファーウェイについても、米司法省がイランに絡む制裁措置に違反した可能性について捜査している。
 米中関係が厳しくなると、中国は周辺諸国との関係改善を求めて来る。そのことは天安門事件後に中国が日中関係の改善に積極的に動いたことをみても明らかである。中国は北朝鮮の金正恩を訪中させ、インドのモディ首相も招いて首脳会談を行っている。こうした文脈から最近の日中関係好転も捉えなければならない。「騙されてはいけない」相手は北朝鮮だけではない。中国こそ警戒しなければならない。こんな国際情勢が大変動を起こしている時に、国会は一体何をやっているのか。