中国の経済圏構想の「一帯一路」は、誰しも現代版のシルクロードとして陸と海から西方へ向かうものと考える。実際に習近平政権は、米国との摩擦を避けるためもあって、古代シルクロードの沿線国にインフラ投資を繰り返してきた。ところが、中国は米国の「裏庭」にあたる中南米にも食指を伸ばして、ここに「一帯一路」をかぶせようとしている。そこには経済的理由のほかに、米国の関心を自国周辺に移させ、アジアで自由に行動させない深慮遠謀が見え隠れする。
19世紀帝国主義の時代の米国は、確かに大英帝国とスペイン帝国の植民地に囲まれ、不安定な状況に対処するため西方へと勢力を拡大した。20世紀になると、今度はヒトラーが「東に向かって米国の征服を再現する」としてソ連を侵攻した。そしていま、拡張主義の中国は西方だけでなく、東方にもその翼を広げているかのようだ。
●中国モデル模倣の危険
中国の王毅外相はこの1月、南米チリの首都サンティアゴで、閣僚級による中国プラス中南米フォーラムに出席し、太平洋を越えた協力の道を強調する「一帯一路に関する特別声明」を出した。王は続くウルグアイでもバスケス大統領と会談し、一帯一路に参加することで「ウルグアイが発展への強い動力を得られる」などと、積極的に応じている。
中国が中南米にその手を染めているのは、中南米に台湾と外交関係を結ぶ国が多く、これを遮断して中国との国交樹立を確立するためもあった。最近の例では、カリブ海のドミニカ共和国が中国と国交を樹立し、台湾は即日断交して経済援助を全面停止した。民主進歩党の蔡英文政権が2016年に発足して以来、台湾と外交関係を解消したのは中米ではパナマに次いで2件目だ。
中国は中南米地域への政治的影響力を高めるため、メディア、文化、学会、政治の4分野で人的交流を活発化させている。友好人士として「中国のチアリーダー」を獲得するのが狙いだ。中南米の学生に中国留学の奨学金を提供し、地元大学に中国を学ぶ孔子学院をつくり、政党関係者を中国に招待している。
招待者には豪華ホテルと贅沢なもてなしの接待攻勢で親中のチャイナ・ハンドを養成する。これにより、戦略的に重要な国を「一帯一路」に組み込むことがスムーズに運ばれることになる。中南米における中国の影響力は、今後、高利の借款を通してインフラ整備を推進していくだろう。ラテンアメリカ開発発展センターのパブロ・カーディナル研究員は、中南米の国々が民主主義抜きの発展が可能なことを中国モデルから模倣する危険を指摘している。
●裏庭に介入して足止め
これに米国がただならぬ関心をよせていることは明らかだ。すでに、辞めたティラーソン国務長官が2月初旬に1週間ほどかけて中南米5カ国を歴訪したのも、裏庭を固めるためであろう。歴訪に先立つテキサス大学での講演で、ティラーソン氏は、中国を名指しして「中南米に新しい帝国は不要」と厳しく批判している。とくに、非民主的な中国モデルは、中南米の「貴重な資源を、しばしば法と人権を無視して、自らの経済を繁栄させるために搾取する」と容赦ない。
シカゴ大学のジョン・ミヤシャイマー教授によれば、大国はライバルの登場を嫌うし、「地域覇権国は互いに相手の裏庭でトラブルを起こそうとする」と指摘する。もしも、米国が裏庭で危険な敵に直面することになると、米軍が自由に世界に展開できなくなるからだ。
米国は戦略的な競争相手国による裏庭への進出には、過剰なほど神経を研ぎ澄ます。冷戦期のソ連は、キューバと密接な同盟関係を結んで米国の裏庭に介入して神経を逆なでし、一触即発の危機を迎えている。ミヤシャイマー教授によれば、中国はブラジルと密接な関係を構築して、西半球に軍を駐留させるチャンスを獲得するかもしれないと指摘している。
中国からみると、米国はすでに中国の裏庭に巨大な軍事プレゼンスを維持していると考え、戦略上の対抗措置をとっているつもりかもしれない。西太平洋で地域覇権を目指す中国には、日本と韓国にある駐留米軍がそれにあたる。米中の戦略的な競争は、すでにグローバルに展開している。