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2018.05.15 (火) 印刷する

なぜ今武漢で中印サミットか:燕が一羽来たとて夏にはならず ルーパク・ボラ(国立シンガポール大学客員研究員)

 インドのモディ首相と中国の習近平主席による非公式首脳会談が4月27、28の両日、中国の武漢で開催され、インドや中国ばかりか、世界を驚かせた。これは、昨年、中国がブータンのドクラム地域(中国が領有権を主張)で道路建設を開始し、これに対してインドがブータン側に立って介入するという両国間の小競り合いがあった後だけに、喜ばしい予兆である。
 これは非公式の首脳会談だったので、会合からの「お持ち帰り(テイクアウェイ)」はなかったが、アジアの巨獣同士の緊張緩和を反映していた。
 しかし、中国とインドの関係において大きな前進をもたらす可能性は低い。両国にとって大きな懸案事項には何の動きもなかった。中国は、インドが求める原子力供給国グループ(NSG)への参加や、パキスタンに拠点を置くイスラム過激派のリーダー、マスード・アズハルのテロリスト指定などにも一貫して反対している。

 ●インドにすり寄る狙いは
 北京には、会談を行うための独自の理由がある。
 第1に、朝鮮半島の急激な出来事は、北京がその地域における伝統的役割を失ったことを意味し、米国が在韓米軍を引き上げる保証はなくなったということである。つまり、北京にとってはダブルパンチになる可能性がある。
 第2に、中国はトランプ大統領が執着する米中貿易戦争の真っ只中にあるということだ。他方、インドとは巨額の貿易黒字を抱え、対印関係の強化から中国は多くの利益を得ることができる。昨年、インドと中国の貿易総額は過去最高の844.4億ドルに達したが、インド側の貿易赤字は517.5億ドルに膨らんだ。
 第3に、これは、北京の言いなりにならない日本やインドなどの国々に、食指を伸ばしていこうとする北京の試みの一環である。ただ、これとは対照的に、中国が対艦巡行ミサイルと地対空ミサイルをスプラトリー諸島に配備したことを示す最近の報告は、実際の心変わりはなかったことを意味している。

 ●モディ再選に欲しい中国の力
 来年2019年はインドの選挙年であり、モディ首相は、再選の可能性を高めるために経済を底上げする必要があることをよく知っている。メイク・イン・インディア(インドでものづくりを)プログラムは、もともと計画されていたような成功を収めてない。したがってインフラのような領域に中国の資本を注入することは、インド経済の健全性にとってはプラスになるだろう。また、ニューデリーは、既に中国とパキスタンとの緊密な関係による影響を緩和したいと考えている。さらに、中国とインドはアフガニスタンで協力することを嫌ってはいないという報告もある。

 ●中印の本格接近にはなお時間
 両国の間にはなお多くの問題がある。インドは、中国の「一帯一路」(OBOR)から離脱することを選択しており、特に主権に関する懸念があるため、その立場を変更する可能性は低い。一方、中国はインドのアルナーチャル・プラデーシュ州に対する主張を放棄し、パキスタンとの協調を止めるとは考えにくい。
 スリランカ、パキスタン、モルディブなど、インドの周辺地域への中国の進出も急速に進んでおり、ニューデリーはこれに対応するための一貫した戦略を打ち出すことができなかった。インドは、米国、日本、オーストラリアとともに4カ国戦略対話をスタートさせたが、それをどのように前進させるかについて縛られているようだ。
 来月、モディ首相は中国の青島市でSCO(上海協力機構)サミットに参加する。したがって、武漢サミットは双方の当事者にお互いを見分ける機会を与えた。双方が交渉のテーブルに戻ったことは良いニュースであるが、ニューデリーはガードを下げず、北京からインドへの一時的な秋波が、より大きなゲームプランの一部である可能性を理解すべきである。広く言われるように、燕が一羽来たからと言っても夏にはならない。