公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.05.18 (金) 印刷する

会談キャンセルの脅しに屈するな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 16日、北が南北閣僚級会談を突然キャンセルし、6月の米朝首脳会談の開催をも警告するようになったのは何故か。
 日本のメディアが、「春より規模が小さい米韓空軍演習に反発しているのは何故か」とか、「北朝鮮の常套手段である首脳会談前の揺さぶり」とかコメントしているが、筆者は、これまでも本欄で既に書いているように、戦術核搭載の米爆撃機B-52を北は相当嫌がっていると推測している。

 ●的外れな日本メディアの論評
 果たせるかな、北の国営朝鮮中央通信は16日、B-52の演習参加を問題視し、米UPI通信は同日の夕方「米軍が米韓空軍演習『マックス・サンダー』からB-52を外した」と報じた。軍事に詳しくない日本のメディアや半島専門家は、そこが判っていないので的外れの論評となる。
 北朝鮮の豊渓里核実験場の廃棄に関して、衛星情報により長年監視している米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、北の主張通り、「未だ使用可」としているのに対し、中国の権威ある大学の研究チームは「既に崩壊し、使用不能状態」と異なる見解を出している。北の言い分は宣伝に過ぎないが、38ノースと中国チームの分析とでは、どちらが正しいのであろうか。

 ●衛星情報の過大評価は禁物
 昨今、議論となっている核放棄を先行させる「リビア方式」について、筆者は米インテリジェンス関係者から次のようなことを聞いたことがある。
 米インテリジェンス関係者がリビアに行って核施設とかねてから予測していた施設に行こうとすると、リビア側から「その施設は核に関連していない。しているのはこっちの施設だ」と誤りを指摘されたと言う。
 38ノースが購入している衛星写真よりもずっと解像度が高い画像を保有している米インテリジェンス・コミュニティーですら、画像情報だけでは過ちを犯すという良き事例である。こと程左様に偵察衛星だけで、しかも解像度の低い民間の画像で屋内あるいは坑道内の機能を判別することは難しいのである。筆者は人的情報源も備えている中国科学院の評価のほうが正しいと思っている。

 ●圧力継続こそが最良の政策
 14日の『直言』で筆者は軍事とインテリジェンスが欠落している日本の現状について書いた。この傾向はメディアや評論家にも言えることである。ホワイトハウスの報道官は「北が望まないなら首脳会談をやめても良い」とコメントしたが、首脳会談を取りやめてでも軍事的圧力を北にかけ続けることこそが、北に米国の主張を飲ませられる最良の政策であると思う。