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太田文雄

【第514回・特別版】リビア方式核廃絶に必須な情報機関

太田文雄 / 2018.05.14 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 米政府は北朝鮮の核廃絶に「リビア方式」を適用したい考えのようだ。リビア方式とは、国際原子力機関(IAEA)のような国際機関の査察では時間がかかりすぎるので、どこに核・ミサイル施設があるのかを既に掌握している外国の情報機関に核関連機材・物資を速やかに国外へ撤去させる方式である。リビアの場合、米国の中央情報局(CIA)と英国の秘密情報部(MI6)、そして近隣国イスラエルのモサドといった情報機関がこれを行った。本来、朝鮮半島の核・ミサイルに関しては日本の情報機関が関与するのが筋であろう。しかし、そのような情報機関は日本に存在しない。何故か?

 ●外国を信頼する日本国憲法の限界
 外国が信じられないから、その本意を探るために情報機関が必要となってくるのである。日本国憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意した」国民にとって、情報機関が必要となる道理は生まれてこない。
 昨年まで核・弾道ミサイルの実験を繰り返してきた北朝鮮の指導者が南北・米朝首脳会談の開催に折れてきた原因は、経済制裁よりもむしろ米国の軍事的圧力にあると筆者は確信しているが、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と憲法で定められた日本は、この点でも貢献できなかった。日本に残された力は経済力だけである。

 ●拉致解決までびた一文出すな
 湾岸戦争の時もそうであったが、北朝鮮の核問題では従来、米国が意思決定を行い、日本は金だけ払わされてきた。南北朝鮮や国際社会も、それが当然と思っている節がある。しかし、今回は拉致問題が解決し、中・短距離弾道ミサイルが完全に廃棄されるまで、びた一文払うべきではない。特に拉致被害者の帰還は、違法に連れ去られた人を連れ戻すだけなので、金銭的な報酬を北朝鮮に与えるのは盗人に追銭を与えるようなものである。
 また、仮に将来、朝鮮半島が統一されることになっても、南北首脳会談のデザートに我が国の領土である竹島を敢えて入れた半島の地図を添えるような国は、間違いなく我が国の脅威となるだろう。1979年の日中国交正常化以降、中国に対して行った日本の政府開発援助(ODA)は3兆円に上る。しかし中国はその経済力で軍事力を日本の3倍近くまで拡張し、我が国固有の領土である尖閣諸島の領有権を脅かしている。結果的に日本は、金を出して我が国の脅威となる国を育成してきた。朝鮮半島でこれと同じ失敗を繰り返すべきでない。
 国民の血税である金を出さずに済むように、情報・軍事力を高めて真っ当な国のあり方を議論するのが国会の責務ではないのか。百年に一度の国際社会の激動期にいつまで「モリ・カケ」やセクハラ問題で貴重な国会の審議時間を浪費する気なのか。(了)