公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

冨山泰

【第513回】日中関係改善に前のめりは禁物

冨山泰 / 2018.05.14 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 安倍晋三首相は、日中韓サミットのため東京を先週訪れた李克強中国首相の北海道視察に同行し、帰国する空港で当初の予定になかった見送りを行うという下にも置かない対応ぶりを最後まで見せた。
 4年前、北京の国際会議で安倍首相と仏頂面で握手した中国のトップ、習近平国家主席の非礼さが冷たい日中関係を象徴したことを思えば、両国関係の様変わりには目を見張るものがある。とはいえ、日本外交の基軸は日米同盟であり、米中関係が対立を深めている折から、日本は中国との関係改善に前のめりにならないよう気を付けるべきだ。

 ●「一帯一路」に協力?
 李首相の訪日における合意事項のうち、最も注目されるのは、中国の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の関連で、日中両国が第三国でのビジネス展開を話し合う官民合同委員会の設置で一致したことだ。
 日本政府は従来、一帯一路への協力に慎重で、協力するには圏内のインフラ整備計画の資金調達に透明性や公正性が必要だと主張していた。これは、一帯一路に中国の覇権拡大の一翼を担う側面があり、資金借り入れ国が債務を返済できなくなって、中国に重要インフラを引き渡さざるを得なくなる事態が現実に起きているからだ。
 もし今回の官民合同委員会設置が一帯一路への協力へ向けて一歩踏み込んだものだとすれば、中国主導秩序への代替案を提供しようとする安倍首相のインド太平洋戦略との整合性が問われる。一帯一路への協力を拒否する親日大国インドなどへの丁寧な説明も必要になるだろう。3月に国基研がインドのシンクタンク、ビベカナンダ国際財団(VIF)と合同会議を開いた際、インド側研究者は一帯一路に対する安倍政権の姿勢に不安を示していた。

 ●対立深める米中
 日中関係の改善が進む一方で、米中両国は互いに一歩も引かない貿易摩擦に加え、台湾や南シナ海をめぐり対立を深めつつある。
 特に、3月にトランプ米大統領が署名して成立した台湾旅行法は、米台高官の相互訪問を可能にする画期的な内容だ。法案が上院を全会一致で通過したことは、中国の猛反発をはねつける超党派の意思が米側に存在することを物語る。
 中国の人工島軍事化が進む南シナ海でも、トランプ政権がほぼ2カ月に1度のペースで米海軍の「航行の自由」作戦を実施しているのに対し、中国は4月に史上最大規模の軍事演習を行って、海軍力を誇示した。
 トランプ大統領の中国に関する発言は振幅が大きいものの、深刻化する米中貿易摩擦を含め、政権全体としては中国への姿勢は厳しいと見てよさそうだ。日中関係は米中関係に左右される。中国の最近の対日接近は米中対立の深化を反映している。日本はどっしり構えて国益にかなう対中政策を追求すればよい。(了)