公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.06.12 (火) 印刷する

米台関係の進展に日本はもっと学べ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 史上初の米朝首脳会談によって東アジアの冷戦が集結しようとする間に、もう一つの冷戦の産物である台湾海峡がきな臭さを増している。日本のメディアはほとんど報じていないが米台関係は相当改善し、それに対して中国が苛立ちを強めている。
 台湾が中国本土の手に落ちてしまえば、中国の太平洋進出は自由になり、尖閣はおろか沖縄が危険に晒されるという事実を日本はもっと認識し、戦略的見地から台湾との関係改善に取り組むべきであろう。

 ●主張始めた台湾の留学軍人
 5月23日に米国防総省が、中国海軍の環太平洋合同演習(RIMPAC)への招待を取り止めたことは同月25日の「ろんだん」で書いたが、その後代わりに台湾海軍を招待すべきだとする論評が米国内で出回り、台湾の嚴徳發国防大臣は台湾海軍のRIMPAC招待を期待している旨、議会証言したと台北タイムズが報じている。
 5月末に行われた米陸海空三軍士官学校の卒業式で、台湾からの留学生が初めて制服を着て参列し、特に海軍兵学校の卒業式では式に参列したトランプ大統領と握手を交わす写真が報じられた。
 こう書くと読者は意外に思うかもしれないが、米国の軍学校に留学している台湾留学生は、対中関係に配慮して制服着用が許されていなかったのである。実は、日本にも多くの台湾軍将校がいるが、彼らは未だに勤務中に制服着用が許されていない。軍人としては恥辱と感じているに違いない。
 5月30日に米太平洋軍司令官の交代行事がハワイで挙行されたが、その際、台湾海軍司令官の黄曙光海軍大将が出席、「昨年台湾海兵隊が米国のカウンターパートと太平洋岸の州で合同演習を行ったことを今年も行いたい」と述べたと30日の台湾ニュースが報じた。
 さらに6月2日の台北タイムズは、同交代行事に台湾国防次官である沈一鳴中将と参謀総長である李喜當明海軍大将も出席したと報じている。

 ●有事の台湾支援、7割が支持
 同じ頃、中国政府が台湾ビジネスマンをスパイ容疑で逮捕し、また各国の航空会社に対しては台湾が中国の一部であることを機内誌やウェブサイトなどで明確に表記するように求めたと報じられたが、これらは上記のような米国の動きに対して中国側が焦りを感じてとった措置と捉えることもできる。
 6月6日のワシントン・エグザミナー紙は、米海軍が台湾海峡に潜水艦を派遣したと報じた。また米上院の軍事委員会は同じ6日、2019会計年度の国防予算の大枠を定める国防授権法の修正案を提出したが、その中には台湾との安全保障協力、軍事交流の強化が含まれている。10日には、今年3月に成立した米台湾旅行法に基づき国務省の教育・文化問題担当次官補が訪台した。
 こうした動きに対して7日の中国のニュースサイト環球網は「中国は海峡危機の為に準備すべきである」と報じた。台湾を巡る米中の角逐からは目が離せない。
 先日、ある安全保障に関する講演会で、「台湾海峡危機があった場合、日本は台湾を支援すべきか?」という司会者の問いに対し、約7割の参加者が「すべきだ」と答えていた。日本も具体的な措置を検討し始める時ではないか。