公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.06.13 (水) 印刷する

政府はトランプ発言の真意を質せ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米朝首脳会談は北に多くを与えた米側の大譲歩と言える。共同声明にCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)のV(検証可能)とI(不可逆的)の言葉がなかった上に、トランプ大統領は記者会見で米韓合同軍事演習の中止まで言及してしまった。

 ●CVIDはどうなった
 北朝鮮は先月、豊渓里の核実験場を西側の報道陣を招いて爆破させたが、当初予定されていた専門家を招待することは拒んだ。これでは「検証可能」になっていない。爆破した坑道を再び使用可能にすることもできるし、核実験によって蓄積された試験結果は温存されているので非可逆的ではない。さらに、核保有国はコンピューターによって実際の爆発がなくてもシミュレーションで再現できるようになっているので、坑道を破壊したからといって将来に渡って核実験しないことを証明したことにはならない。
 トランプ大統領は、米朝首脳会談後の記者会見で、北が弾道ミサイルエンジン試験場を取り壊すことを表明したと語ったが、これも専門家を招待する訳でもないので検証可能ではなく、得られた試験データは温存されるであろうから、不可逆的にはならない。米シンクタンク38ノースが得た衛星写真では、西岸の東倉里のミサイル発射施設は更地になった模様であるが、東岸にある舞水端里のミサイル発射試験場に関しては、何も報じられていないのでC(完全)も疑わしい。
 即ち、北朝鮮の核・弾道ミサイル廃棄は、VもIも北の意のままに行われることを示している。

 ●米韓軍事演習は継続を
 軍は演習を継続することなしに練度を維持することは難しい。今回、北が核放棄の対話に応じる態度を示したのは、経済制裁よりも軍事的圧力の方が大きいと筆者は見ているが、北から具体的な核・弾道ミサイル放棄の行動がないままに、米韓軍事演習を「金がかかる」「挑発的」として米大統領自らが中止に言及するのは如何なものか。喜んでいるのは北朝鮮だけではない。中国そしてロシアに対する抑止効果を減じる結果ともなっている。
 米紙ワシントンポストも「米朝首脳会談の最大の勝者は中国」との記事を掲載しているが、日本政府としては、大統領発言の真意を米政府に質すとともに、米韓合同軍事演習の継続を働きかけるべきである。