7月に米ハドソン研究所が「日本との防衛産業セキュリティー・ギャップを縮小へ(Closing the Defense Industrial Security Gap with Japan)」というタイトルの報告書を作成した。概要は「今後、米・英・豪・加・ニュージーランドという5カ国(Five Eyes)で共有されている軍事秘密情報を日本も共有して6カ国(Six Eyes)になるためには、防衛産業の保全措置が必須である」というものである。
●米国は日本の現状に懸念
2007年3月にトヨタグループの自動車部品製造大手デンソーで、嘗て中国の軍事関連会社に勤務していた中国人の技術者(技術部係長)が産業用ロボットのデータを大量にコピーして持ち出し、愛知県警に横領の疑いで逮捕された。
この事件を契機に経済産業省が2007年9月に「技術情報等の適正な管理の在り方に関する研究会」を15名の専門家で発足させ、筆者も対諜報活動(カウンター・インテリジェンス)の観点から委員に指定されて毎月1回の会合に出席した。その成果として第171回通常国会で2009年4月、「不正競争防止法の一部を改正する法律」が成立し、我が国企業の保全機能が強化された。
その約2年後の2011年、今度は防衛産業の主役を担っている三菱重工業などがサイバー攻撃を受けたとの新聞報道があった。今後、益々防衛産業に対する秘密情報不正取得の傾向は高まると思われるが、その対策が十分でなければ重要な防衛技術情報は主要国と共有できない、というのが米国の懸念である。
●DSSのような組織が必要だ
米国には防衛保全サービス(Defense Security Service:DSS)という組織があり、米国の軍事技術に関して諸外国がどのようなアクセスを試みているか、報告書を出している。それによれば、年々、米防衛産業に対してスパイ活動の疑いがある行為は増加している。
報告書では、東アジア・太平洋、中近東、南・中央アジア、ヨーロッパ・ユーラシアなど、地域名でぼかした形で、そのパーセンテージを示しているが、米国防当局者によると、最も積極的な技術スパイ国家は中国、イラン、ロシアであるらしい。
報告書はまた、軍事技術の内、電子技術、指揮・管制・通信・コンピューター、航空技術、海洋システム、ソフトウエアーが狙われていると指摘している。技術情報の収集手段として最近とみに増えているのがネットワーク、即ちサイバー侵入である。
3年前の2015年に防衛装備庁が発足し、防衛産業の情報保全については同庁の装備政策部が業務の一部として所掌しているが、一つの部が片手間にできるような内容であるのか疑問なところである。