公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.10.10 (水) 印刷する

富坂氏の「国土買収」擁護にひと言 宮本雅史(産経新聞編集委員)

 拓殖大学海外事情研究所の隔月誌「海外事情」の7・8月号で、同大教授の富坂聡氏が中国資本による国土買収について、「土地を買い占めているのは日本の乗っ取り計画だ、と騒ぐ暇があるなら、なぜ、土地を活用しないのか」「何もしなければ、北海道にずっと不毛の空き地が残るばかりだ」と述べている。
 もっともらしい論に聞こえるが、富坂氏は国土が外国資本に買収されることの根本的問題を、一般的な経済行為とすり替えているとしか思えない。

 ●目的は不明・未定が大半
 日本の国土が外国資本、中でも中国資本に買収されるケースが顕著になりつつある。とりわけ北海道では、中国資本や中国が関係しているとみられる法人に農地や山林、観光地、太陽光発電所用地などが次々と買い占められている。
 北海道庁によると、平成29年だけで100%外国資本や資本金の50%以上が外国資本という法人に買収された森林は、計56件、約120haと東京ドーム約26個分に及ぶ。ベスト4は中国(香港を含む)28件(39.5ha)▽英領バージン諸島7件(8.4ha)▽台湾6件(11ha)▽シンガポール4件(1.5ha)で、中国関係資本は件数、面積とも、その他を圧倒した。他はカナダが3件、オーストラリアとタイがそれぞれ2件、スペイン、アラブ首長国連邦、マレーシア、フィリピンが各1件だった。
 気になるのは買収後の利用目的だ。中国資本や中国系資本の場合、判明しているのは、「居住用建物の建築」が2件、「太陽光発電」が3件、「資産保有」と「開発」がそれぞれ1件で、「不明」「未定」が21件もあった。シンガポールは、4件(1.5ha)すべてが「不明」だった。
 いったい何のための森林買収なのか。目的が「不明」「未定」のまま、広大な森林が売買されていることに言い知れぬ不気味さを感じるのは筆者だけではなかろう。北海道には自衛隊施設が多いが、買収地点の近くにはこうした施設が多いことも懸念材料だ。

 ●売却してからでは手遅れ
 一度、売買契約が成立し所有権が移ると、何に利用するか、どう開発するかは、所有権者の思いのままだ。日本国内でありながら、日本はいっさい異議を唱えることはできない。日本では、外国資本は目的を問わず、自由に不動産を買収し、自由に利用できる構造になっているのだ。
 こうした無防備ともいえる制度下で、海外からの買収は増え続けている。北海道では平成18年以降の集計だが、29年12月現在で、34市町村で計2495ha(東京ドーム531個分)にふくれあがっている。そのほとんどが中国資本で、国際的リゾート地・ニセコとその周辺から、水源地や資源が眠る場所を狙うかのように、全道に向け放射線状に広がっている。しかも、買収規模が100ha単位と拡大している。
 国家とは、国土があり国民が住んで、主権が備わって存在するが、その重要な要素の国土が外国資本の手に無防備に渡ってしまっては、国家の態をなさなくなる。そもそも何のチェックもないままに買収されること自体が問題なのだ。
 富坂氏は「むしろ中国人が目をつけた日本の潜在力を学び、そのビジネスモデルを捉えて逆に『地の利』を活かして彼らを追い抜いてしまうような気力が必要だろう」と説くが、首を傾げたくなる発言だ。
 国家として国土の有効活用を考えることは当然であり、重要なことだ。だが問題は、我が国ではアメリカや欧州など諸外国と異なり、安全保障上の重要な案件だとの認識が根本的に欠落していることだ。国土防衛の観点はもちろん、諸外国と協調していくうえでも早急なルール作りが必要だ。