公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.10.15 (月) 印刷する

中国の経済スパイに警戒感薄すぎる日本 島田洋一(福井県立大学教授)

 中国との事実上の「新冷戦」を宣言したペンス米副大統領演説(10月4日)の衝撃波が拡がる中、10月10日、米司法省が中国の政治警察兼情報機関である国家安全部の工作員を経済スパイ容疑で逮捕、起訴したと発表した。米政府当局が中国情報機関の正規職員を、実名を挙げた上で訴追したのは初めてである。
 いずれにせよ米政府は、中国との「新冷戦」を戦い抜く決意を固め、戦いの手法の多様化にも乗り出したと言える。

 ●狙われる最先端テクノロジー
 司法省の発表文によると、起訴された工作員(operative)の名前はス・ヤンジャン(Yanjun Xu)で、Qu Hui、Zhang Huiなどの偽名も用いていた。江蘇省国家安全局の第6部で副局長(Deputy Division Director)を務めていたという。
 今回の犯罪容疑は、米国の航空宇宙産業の最先端テクノロジーを盗むことで、GEアビエーション(航空)が開発したエンジンの新型ファンなどが具体的ターゲットだった。開発に携わった専門家を特定した上で、「中国の大学での講演を依頼するという形で接触を始める例が多かった」という。
 本格的な情報獲得に当たっては、ヨーロッパが接触ポイントに選ばれていた。今回、米側の依頼を受けて逮捕したのがベルギー当局だったのはそうした事情による。日本でも警戒すべきパターンだろう。
 今後、裁判はオハイオ州シンシナティの連邦地方裁判所で進められることになるが、日本のメディアにも継続取材を期待したい。

 ●米国は「新冷戦」戦い抜く決意
 いずれにせよ米政府は、中国との「新冷戦」を戦い抜く決意を固め、戦いの手法の多様化にも乗り出したと言える。日本の政財界の意識改革も待ったなしの局面に入った。そうした中、11日付の産経新聞に「中国首相『日本と自由貿易を擁護』 経団連会長らと会談」と題する記事が載った。
 福田康夫元首相と経団連の中西宏明会長ら大手企業首脳による訪中団が10日、李克強首相と北京で会談したというものだが、李首相は会談で、通商圧力を強めるトランプ米政権を念頭に「日本とともに多国間貿易体制や自由貿易を擁護していきたい」と述べたという。
 これに対して中西氏は「日中間ではビジネスに関連して多面的な対話が必要となっている」と応じ、環境や医療などの分野でも議論を深めていくことに意欲を示したというのである。
 日本の政財界は、アメリカの動きがどこまで視野に入っているのだろうか。「中国に投資するならアメリカでは商売させない」が米政府の基調となりかねない状況の中、懸念を覚えざるを得ない。