公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.10.15 (月) 印刷する

日中連絡メカニズムに過大期待は禁物 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 新聞報道によれば10月8日、日中防衛当局局長級協議が北京で開かれ、自衛隊と中国軍の偶発的な衝突をさけるための「海空連絡メカニズム」をめぐり、ホットラインの早期開設が重要だとの認識で一致した模様である。
 本メカニズムは6月から運用を開始しているが、紛争のエスカレーションを防止するために軍の指揮官同士、あるいは政府間で直接連絡を取り合うホットラインはまだ開設されていない。無いよりはあった方が良いに決まっているが、米中間で過去に起こった事例を振り返ると、必ずしも機能してきたとは言い難い。
 過大な期待は禁物であることを具体例で警告していきたい。

 ●ホットラインに出ない中国
 2001年4月1日、米電子偵察機EP-3が中国海南島沖の公海上で中国軍戦闘機に追突された。中国機は墜落し、損傷を受けたEP-3も海南島に強制着陸させられた。この時、米国の中国大使であったプルーハ元太平洋軍司令官や、現職の太平洋軍司令官ブレアー海軍大将が、ホットラインで中国側のカウンターパートを呼び出したものの、誰も電話口に出なかったという。両氏から直接聞いた話だ。
 今回の海空連絡メカニズムも「事象が生起してから48時間以内に」との制約が付いている模様である。しかし、2日の間に事態はさらに悪化している場合が多い。
 本年1月に米国の軍事ジャーナリスト、マイケル・ファベイが上梓した『米中海戦は既に始まっている』でも、中国当局者の“無責任ぶり”が描かれている。
 2013年12月に同じく海南島沖の公海上で米巡洋艦カウペンスが、中国海軍の揚陸艦に進路を妨害された。事件後ただちに米海軍トップのグリーナート作戦本部長(大将)が中国海軍トップの呉勝利司令員(同)にテレビ会議で経緯を問い質したが、呉大将は「あれは陸軍の船で、海軍の管轄下にはない」と答えたと本書の192頁に書かれている。

 ●平気で嘘をつく中国首脳
 世界広しといえど、揚陸艦を陸軍の所属にしている国などひとつもない。海軍のトップが平然と大嘘をつくところに中国の恐ろしさがある。
 もうひとつ例を挙げたい。
 2016年末、中国国防部のスポークスマンが次のような声明を出した。「12月10日、2機の航空自衛隊F-15が宮古海峡付近を飛行中の中国空軍機に対してデコイフレア(かく乱用小型焼夷弾)を発射した。この行為は中国軍機と搭乗員に対する危険な行動でプロフェショナルではない」
 しかし、中国側スポークスマンが証拠として掲げた写真のF-15は、当日の飛行任務には就いていなかった。これも当時の稲田防衛大臣から直接聞いた話だ。日本が、中国軍艦・航空機の危険極まりない行為を度々公表するものだから、「自衛隊だってやっている」とのフェイク・ニュースを敢えてデッチ上げたとしか言いようがない。中国は高官やメディアが平然と嘘をつく。日中の海空連絡メカニズムも成果に関してはなお未知数である。