昔から基本的人権を擁護してきたはずのカトリック教会は、最近は一歩退いて人権を厳しく圧迫する共産主義の中国の味方になってしまったのか。
ローマ法王庁(バチカン)は9月、中国との間で中国国内のカトリック司教任命に関する暫定合意に達したとのことである。暫定合意の内容がまだ公開されていない現状では正確なコメントをすることは難しいが、報道によると、中国国内の司教を任命するにあたって今後バチカンは、中国政府に指名権を認める代りに、中国は教皇の最終的任命権を認めるという合意のようである。だが、これが暫定合意の本当の実質だとしても色々の懸念が残る。
バチカンと中国の暫定合意が成立する前から一貫して反対してきた香港のジョセフ陳日君名誉枢機卿は「地下教会の司教も、中国政権の推薦によって新たに任命されるのだろうか」と率直な懸念を示している。これは思い過ごしではない。中国の事情、特に中国の宗教への政策や行動に詳しい陳名誉枢機卿の意見は重い。
●地下教会内でも分れる評価
確かに中国の信頼性には疑問がある。宗教のことだけではない。世俗の側面でも「法の支配」という人権の基本的原理を認めない中国は、今度の暫定合意についても守るかどうか怪しいと考える人々は陳枢機卿以外にも沢山いる。
もう一つの見方がある。中国問題の専門家、ベルナルド・セルヴェレラ神父(Father Bernardo Cervellera)は、やや控え目な態度を取る。セルヴェレラ神父によると、この暫定合意によって中国のカトリック信徒の状況は変わらない。少なくとも暫定合意のためにもっと酷い目に遭うことはない、というのだ。
中国のカトリック信徒は、中国政府公認の中国天主教愛国会と共産党の厳しい支配下で今までのように残る。ただ、暫定合意で教皇に司教の最終任命権があると認めたことで、中国政権が教会を分離させることは、むしろ難しくなるだろうと神父は考えている。
セルヴェレラ神父によれは、今では地下教会は3つの意見に別れている。1つは、暫定合意を中国との和解の新しいきっかけになると歓迎し、自派の司教釈放に臨むべきだという積極派。2つ目は、中国政権は暫定合意に限らず何の協定も守らないと思っている否定派。そしてもう1つは、教皇フランシスコへの不信を募らせるグループだ。
●教会の尊厳と名誉守る大切さ
セルヴェレラ神父はまた、少なくとも今回の暫定合意はバチカンと台湾の外交関係に関係しないと結論づけている。バチカンで外務大臣の役割を務めるパロリン枢機卿がこの暫定合意は外交的な公文でなく、パストラル(霊的指導の意味)であると主張しているからだ。そうなればいいけれども…。
とどのつまり、セルヴェレラ神父の意見はアンビバレントなものだ。それは暫定合意そのもののあやふやな性質による。言えることは一つ。基本的人権を踏みにじる世界一の犯罪国家、中国と手を組むことは、カトリック教会にとって決してプラス評価にはつながらないということだ。
なお悪いことに、最近の報道によれば、北朝鮮の金正恩が韓国の文在寅韓国大統領を通じ、教皇フランシスコを北朝鮮に招待する考えを伝えてきたという。中国とバチカンの暫定合意が念頭にあるのだろう。教皇には教会の尊厳と名誉を守り抜いてほしい。そう神に祈るばかりだ。