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2018.10.29 (月) 印刷する

鈴木氏の「2島+α」論は禍根残す 遠藤良介(産経新聞論説委員、前モスクワ支局長)

 対ロシア外交に影響力を持つ鈴木宗男・新党大地代表が、10月19日付の産経新聞インタビューで北方領土返還交渉について語った。「平和条約の締結後に歯舞群島と色丹島を引き渡す」とした日ソ共同宣言(1956年署名)をもとに、「2島+α」を目指すべきだと述べている。「α」については、国後、択捉両島との自由往来や現地での共同経済活動を例に挙げた。

 ●交渉文書は「共同宣言」だけでない
 鈴木代表は、両国によって「批准された正式な文書」は共同宣言しかなく、プーチン露大統領は「一貫して共同宣言の有効性を認めている」と発言。ここを領土交渉の「入口」にするのが自然だと述べる。
 しかし、共同宣言を他文書よりも「格上」とするロシアの主張に迎合するのはどうか。
 日露首脳は93年、「4島の帰属」を「法と正義」の原則で解決するとした東京宣言に署名している。プーチン氏自身が署名した2001年のイルクーツク声明は、共同宣言が交渉の出発点を記した「基本的文書だ」としつつ、東京宣言に基づいて4島の帰属問題を解決するとうたった。
 共同宣言を「別格」とし、それ以降に積み上げられた交渉成果をないがしろにするべきではない。
 共同宣言は、日本人抑留者の帰還や国連加盟、漁業問題の解決という重要課題を抱えていた日本が、領土交渉の継続を約束させた上で署名したものだ。当時の厳しい状況にも思いを馳せる必要があろう。

 ●共同経済活動に期待は禁物
 鈴木代表が「2島+α」の「α」と位置づけている共同経済活動は、安倍晋三首相が2016 年、領土交渉の「新しいアプローチ」として打ち出したものだ。だが、共同経済活動を実行するための、両国の法的立場を害さない「特別な制度」の設計が難航している。
 そんな中、プーチン氏は今年9月の経済フォーラムで、領土問題解決といった「前提条件」なしに、「年内に平和条約を締結しよう」と言い放った。事実上の領土交渉棚上げ宣言であり、「新しいアプローチ」が功を奏さなかったのは明らかだろう。
 「忌憚なく話ができる安倍首相とプーチン氏で領土問題を解決できなければ、平和条約は未来永劫結べないでしょう」。鈴木代表はこう述べる。元島民の高齢化が進む中、少しでも領土交渉を動かしたいとの熱意から出る言葉だろう。
 しかし、米国と中露の「新冷戦」の構図が深まり、ロシア経済の不振でプーチン氏の国内での求心力は低下している。そうした状況で交渉に「期限」を区切れば、足元を見られ、拙速な交渉が後世に大きな禍根を残すことになりかねない。
 北方四島は日本固有の領土であり、ロシアに不法占拠されている。この唯一の真実に基づき、対露戦略をしっかりと再構築すべきだ。焦ることなく、領土交渉の「追い風」を待つのも見識であろう。
 ロシアでの世論醸成や、北方領土問題を国際社会に訴える「国際化」など、やるべきことは数多ある。具体的戦術を議論するならば、国後、択捉両島での「潜在的主権」を認めさせ、当面の施政権はロシアに委ねるような案も検討されていい。