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2019.01.21 (月) 印刷する

米中新冷戦を象徴する『中国の軍事力』 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米国防情報局(DIA)が1月15日、『中国の軍事力』を公表した。DIAが中国の軍事力に関する報告書を出すのは、これが初めてである。これまでは米国防総省が議会に対する年次報告書として『中華人民共和国に関わる軍事・安全保障上の展開(Military and Security Developments Involving the People's Republic of China)』を毎年公表していた。これがDIAの『中国の軍事力』に転換した理由を考察すると、そこには米中新冷戦の構図が浮かび上がってくる。

 ●「関与」消え対決色強める
 『中国の軍事力』の巻頭言には「1981年に当時のワインバーガー国防長官がDIAに『ソ連の軍事力』を出版することを依頼した精神で2017年から本報告書の作成に取り掛かった」とある。ということは、今後、『ソ連の軍事力』同様に毎年出版される可能性が高い。
 『中国の軍事力』には国防総省の年次報告にあったような軍と軍との交流のような記述が一切ない。また平和維持活動や人道支援・災害救助のような軍事力の平和的利用に関する記述も少なくなり、純然たる軍事的脅威に集中して報告書が作成されていることが特徴である。
 言葉を変えれば、これまでの「関与」がなくなり、冷戦期のソ連と同様に中国を扱うという、昨年10月のペンス副大統領演説以来の対中政策の変化を如実に示したものといえる。

 ●進む近代化に高まる警戒感
 DIAの『中国の軍事力』を昨年夏に公表された国防総省の年次報告と比較してみると、より中国の軍事能力について具体的かつ詳細に書かれていることが分かる。
 例えば、核・化学・生物兵器については具体的に中国の核関連施設図などを添付し、サイバー・宇宙能力に関しては、衛星発射基地の図なども掲載している。またDIAの報告書らしくインテリジェンス・サービスに関しても付録の一部で、民間・国内保全・政治活動・軍インテリジェンス・信号・電子といった各組織を詳細に紹介している。さらに後方支援(Logistics)、防衛産業、武器輸出に関しても付録として纏められている。
 最も注目されるのは、冒頭のDIA長官であるロバート・アシュレー陸軍中将の記述だ。長官は、中国の軍事技術力が最も近代的なレベルにあると指摘し、軍事力を使用して地域にその意志を押し付けることができるようになったとの見方を示している。