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2019.01.22 (火) 印刷する

ファーウェイ問題の本質を考える(下) 伊東寛(元陸上自衛隊システム防護隊初代隊長)

 では、ファーウェイに課せられた非難は事実無根の濡れ衣であろうか。中国からの我が国に対する脅威はないのであろうか。

 ●政府が命じる不正アクセス
 中国では、政府によって命じられれば、国内企業や市民、組織は治安当局に協力と支援をする義務があると法律で定められている。これはファーウェイのような企業であっても、政府に協力するよう命じられれば、どんな要請にも全面的に従う必要があるということだ。つまり、政府が命じれば、ファーウェイの機器に中国政府は不正アクセスできる。
 また、中国共産党政権は2006年に、体制に不都合な情報や言論をブロックし、国民への監視を強化するため、国家によるインターネット検閲・規制「金盾計画」を開始した。現在、中国のネット上では、3万人以上とされているネットポリスと、200万人以上のネット監視要員がネットユーザーらの書き込みに反党・反体制言論がないかと24時間目を光らせているという。
 中国でのインターネットの監視、とりわけ新疆ウイグル自治区における監視に関しては空恐ろしいものがある。至る所に監視カメラがあり、カメラの画像は警察のコンピューターに繋がっていて直ちに個人識別がされる。
 スマホなどの利用も制約されており、メールは全て当局に読まれているという。このようにウイグルの人々は中国政府の厳しい監視下にある。中国は、人々を支配するための手段として、こうしたハイテクを利用しているのだ。
 このような監視技術と、そのためのノウハウ(大量のデータから必要なものをピックアップする技術など)は、中国が自国民を監視するためだけではなく、外国に輸出された中国製品(例えばファーウェイ製)にトロイの木馬を埋め込んでおくことで、同様の盗聴・監視行為をするために活用できるだろう。もちろん、このような仕掛けが入っているデバイスは外からコントロールすることも可能であり、その場合はさらに危険な要素を孕んでいる。

 ●日本はスパイ天国から脱却を
 米トランプ政権の中国脅威論に絡んで、5G分野でのファーウェイ製品締め出しが表明され、これに米国との機密情報収集ネットワークを築く英国、カナダ、 オーストラリア、ニュージーランドのファイブアイズ諸国、および日本などが同調の動きを示している。しかし、ことはファーウェイだけの問題ではない。その背景にある中国の動きにもっと注視すべきと思う。
 日本は、スパイ天国と言われて久しいが、これまでも技術情報があらゆる方法で盗まれてきた。しかし、もう、その時期は終わりつつある。警鐘は、国家基本問題研究所を始め、各所から出ていたはずだが、中国は我々の技術を盗むことでコストをカットし、製品を売りさばいて利益をあげ経済発展を遂げた。そしてそのお金は政府主導で研究開発に投資され、今では、日本を技術的に上回った分野も多い。特に今後のキーとなる技術、AI(人工知能)、量子技術、ロボットなどではその傾向が顕著である。
 遅きに失した感がなくもないが、スパイ防止法、クリアランス制度、知的財産の保護、ビックデータ、特に日本人の個人情報に関する内容を守るための仕組みを作ることは急務である。また、今回問題となった5Gの規格制定などにも積極的に参加し、日本の技術力復権に注力する必要があろう。

ファーウェイ問題の本質を考える(上)
ファーウェイ問題の本質を考える(中)
ファーウェイ問題の本質を考える(下)