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2019.01.22 (火) 印刷する

ファーウェイ問題の本質を考える(中) 伊東寛(元陸上自衛隊システム防護隊初代隊長)

 ファーウェイの発展は、そもそも正規の流通ルートに乗らない廉価品(いわゆるパチモン)から始まった。2000年代初期、ネットワークの最重要器材の一つであるルーターは米国C社の一人勝ちだった。
 当時、防衛省のシステム構築担当者の一人であった筆者は、日本の技術者に「多少高くても国産品を使いたいのでなんとかならないか」と話したことがあるが、「到底あの技術レベルのものは(自前では)作れない」と答えられたのを覚えている。

 ●技術をコピーして安売り
 ファーウェイはこのC社の技術を盗んで事業を始めたのだ。これには証拠もある。2012年のハッカーが集まるシンポジウムSecConfに於て、著名なハッカーであるフェリックス・リンドナー氏が、ファーウェイのルーターを解析した結果を発表した。氏によれば、第1世代と第2世代は間違いなくC社の製品のコピーである。なぜならば同じところにバグ(ソフトウエア上の間違い・欠陥)があるからだ。
 C社から見ればたまったものではない。苦労して作り上げた器材の重要部分をコピーされ、そのパチモンを市場で安売りされたのだから。そこで、C社はロビー活動に走ったのではないかと私は思っている。有力な上院議員に依頼してファーウェイを叩いてもらおうとしたということだ。
 ただ、一般的には外国製品といえども軽々に市場から排除はできない。自由・公平な貿易をするための世界貿易機関(WTO)の規定があるからだ。しかし、この規定でも「安全保障上の理由」があれば特定製品を排除することが可能である。

 ●本質は米中の経済覇権争奪戦
 こうして、2012年には米連邦議会が52ページに及ぶ報告書を発表し、ファーウェイと中国の別の通信機器大手であるZTEが米国の安全保障への脅威であると主張、米企業にこれらの会社の製品を使用しないよう促している。
 さらに、2018年2月には、上院情報委員会に出席した連邦捜査局(FBI)のクリス・レイ長官、中央情報局(CIA)のマイク・ポンペオ長官(現国務長官)、国家安全保障局(NSA)のマイケル・ロジャース局長(当時)などそうそうたる面々が「ファーウェイ製品の使用はやめた方が良い」と述べた。
 約半年後の8月には、米国防権限法により、あらためて米政府や関係機関でファーウェイとZTEの機器の使用が禁じられた。すなわち、米国によるファーウェイ排除は、元々はS社のロビー活動であったと私は推測している。
 ただ、世界第2位の経済大国になった中国に関し、2030年ごろには米国を抜いて世界一になるという予想が出されるなど、中国が世界経済を支配するのではないかという警戒感が米国で出てきている。その中で、上記のような「前科」があるファーウェイが標的になったと私は見ている。本質は米中の経済覇権争奪戦なのである。

ファーウェイ問題の本質を考える(上)
ファーウェイ問題の本質を考える(中)
ファーウェイ問題の本質を考える(下)